10月31日(土)「11月のスケジュ−ル」

「11月のスケジュ−ル」
4日(水)マイライフ・アズ・ア・ドッグ '85・Su ラッセ・ハルストレム
5日(木)ロ−ザ・ルクセンブルグ '85・独 マルガレ−テ・F・トロッタ
6日(金)イヤ−・オブ・ザ・ドラゴン '85・米 マイケル・チミノ
7日(土)ラヴ・ストリ−ムス '84・米 ジョン・カサヴェテス
11日(水)大誘拐 '90・東宝 岡本喜八
12日(木)午後の遺言状 '95・日本ヘラルド 新藤兼人
13日(金)雨あがる '01・東宝 小泉尭
14日(土)ナビイの恋 '99・東京テアトル 中江裕司
18日(水)冬の旅 '85・仏 アニエス・ヴァルダ
19日(木)臨時休業日
20日(金)愉快なゆかいな殺し屋稼業 '85・米 アンソニ−・ハ−ベイ
21日(土)シ−ズ・ガッタ・ハブ・イット '85・米 スパイク・リ−
25日(水)愛と悲しみの果て '85・米 シドニ−・ポラック
26日(木)スイ−ト・スイ−ト・ビレッジ '85・C イジ−・メンツエル
27日(金)ダブル・ボ−ダ− '87・米 ウオルタ-・ヒル
28日(土)ビッグ・トラブル '85・米 ジョン・カサヴェテス
★邦画の上映は第二週のみ。シャ−プDLPプロジェクタ−⇒80インチスクリ−ン映写
★金曜日は西部劇・チャンバラDAY土曜日はリクエストDAY

10月31日(土)「特別な一日」

特別な一日」('84・伊=仏)製作・監督・脚本:エット−レ・スコラ 脚本:ルッジェロ・マッカリ/マウリツィオ・コンスタンツェ 撮影:パスカリ−ノ・デ・サンティス 音楽:アルマンド・トロバヨ−リ 出演:ソフィア・ロ−レン/マルチェロ・マストロヤンニ/ジョン・バ−ノン
★限定された状況をきわめて映画的なドラマに作り替える名人、E・スコラの、鮮やかな手並みが鑑賞できる作品である。ムッソリーニ支配下のローマで、アパートの住人全てがファシスト集会に出向いた後に残された主婦と、官憲に追われそこに忍んでいた反ファシストの男の、一日だけの恋を描く。ほとんど密室劇に近い内容だが、アパートの外観の取り入れ方が、ヒッチコックの「裏窓」を思わせて見事である。二大俳優の熱演(特に倦怠期の女を演じるローレンが絶妙)と相まって、官能のスリルを細やかに表現している。<allcinema>

◎家族全員をヒットラ−を歓迎する特別な祭日である集会に送り出して、ホッと一息つきながら散らかされたキッチンを物憂げに片付け始める主婦。熱狂的なファシストである夫に同調して集会に出る気にはならない主婦は、己の裡に潜むマグマのように沸き上がってくるモノの正体にまだ気付いていない。その主婦が立ち働くキッチンから見える向かい側の窓の部屋には自殺を決意した男が最期の仕事かと思われる封筒の宛名書きをしている。大通りで開かれている集会からは絶え間なく大衆を扇動する演説と音楽が聞こえてくる。1羽の九官鳥の縁が主婦と男を偶然に出会わせる。九官鳥とは何か。言葉を告げるモノの謂か。ファシズムに同調することが出来ずに疎外された男との出会いが、主婦に己の裡に噴き上げるマグマの正体を次第に気付かせて行く。それは怒りだったのだ。坦々とした言葉のやり取りと聞こえてくるファシストの狂騒が静かに男と女の間にサスペンスを盛り上げて、男にとっても女にとってもこの出会いの日を「特別な一日」としたのだった。男と決別してキッチンに帰った主婦は、朝方集会に出て行った家族を平静な面持ちで出迎えるのだが、彼女はもう今朝の主婦ではなくなっていたのだった。呑気呆亭

10月30日(金)「シルバラ−ド」

「シルバラ−ド」('85・米)製作・監督・脚本:ロ−レンス・カスダン 撮影:ジョン・ベイリ− 音楽:ブル−ス・ブロ−トン 出演:スコット・グレン/ケヴィン・クライン/ケヴィン・コスナ−/ダニ−・グロ−バ−/ブライアン・デネヒ−/リンダ・ハント
★既に作られなくなって久しかった西部劇大作を、R・カスダンが製作から脚本、監督まで務めて復活させた痛快娯楽ウェスタン。とある事件で投獄の身だったエメット(グレン)は故郷であるシルバラードに帰る途中、下着姿で砂漠に横たわるペイドン(クライン)や縛り首の刑寸前の弟ジェイク(コスナー)、酒場で揉め事を起こしたマル(グローヴァー)などを助けながらシルバラードに辿り着く。しかしそこには土地独占を企てる牧場主が嫌がらせを続けており、エメットの姉夫婦も立ち退きを要求されていたのだった。そしてその一味の中には、以前ペイドンが無法者だった頃に仕事を共にし、いまや酒場のオーナーで町の保安官として君臨しているコッブ(デネヒー)がいた。そしてコッブ達の余りにもひどい悪徳ぶりに怒ったエメット達4人は、町や愛する者たちの平和を守るべく一味に戦いを挑んで行くのだった。歴代西部劇の名シーンを思わせる場面や、西部劇には欠かせないキーワードの全てをふんだんに取り入れ、それでいて古臭さを感じさせない軽快な演出が飽きさせない、まさに一級の娯楽大作。出演者も皆好演で、それぞれの役を生き生きと演じている。<allcinema>

◎よくぞ作ってくれましたという感謝を述べたくなるくらいの西部劇のツボをこれでもかと展開してくれた監督ロ−レンス・カスダンとスタッフキャストの協同の傑作。西部劇好きとしては何よりも嬉しいのは、出演者の誰もが正確に銃を(ちゃんと撃鉄を起こして)扱ってくれていることだ。ワタクシ的にはエメット(グレン)の銃さばきを含めた振る舞いがお気に入りだが、酒場の女主人のステラ(ハント)とペイドン(クライン)の会話が今回は記憶に残った。ステラ“コップは私を脅しのネタに、それで善良な人間が酷い目に・・・。とんでもない話だ。人間は力が強く、性根が悪いと自分より弱い者を踏みつける。だが、それを許すのはもっと悪い、立って戦わねば”ペイドン“立派な考えだが危険だ”ステラ“私はやるよ、あんたは”ペイドン“傷つくぜ”ステラ“死ねば私に手は出せないだろう?”小気味よいステラを演じたリンダ・ハントと悪役コップを意味深く演じたブライアン・デネヒ−に拍手!呑気呆亭

10月29日(木)「ストレンジャ−・ザン・パラダイス」

「ストレンジャ−・ザン・パラダイス」('84・米=西独)監督・脚本:ジム・ジャ−ムッシュ 撮影:トム・ディチッロ 音楽:ジョン・ル−リ− 出演:ジョン・ル−リ−/エスタ−・バリント/リチャ−ド・エドスン/セシリア・スタ−ク
ジム・ジャームッシュ長編映画第1作。ウィリーはニューヨークに10年住んでいる。ハンガリー出身で本名はベラ・モルナー。ある日彼のもとに、クリーブランドに住むおばさんから、16歳のいとこエヴァアメリカでの新しい生活を始めるべくブタペストから来るが、自分が急に入院することになってしまった為、10日間ほど預かってほしいという電話がかかってくる…。アクションもスペクタクルにも無縁で、モノクローム、主人公は3人の若者、音楽は弦楽四重奏と3拍子のロックンロール。なのに、ワンシーン・ワンカットに、奇妙なおかしさと、そこはかとない頽廃が感じられる、ジャームッシュの原点とも言える作品。<allcinema>

◎かつて文芸評論家の小林秀雄セザンヌの「カ−ド遊びをする人々」の絵を評して“ここには無明が描かれている・・・”と言ったが、このモノクロ映画の全編に流れるものはまさに「無明」としか言いようがない。人も景色も荒涼としていながらどこかユ−モラスな味わいがあって、殆どドラマ性のないシ−クエンスのつなぎ方もバッサリといった感じの無技巧で、それでいて退屈さを感じさせない。よくぞこんな映画を作ったなと感嘆させるが、この調子で映画作りを続けて行くことは難しいのではなどと余計な心配をさせられたのであった。呑気呆亭

10月28日(水)「2010年」

「2010年」('84・米)製作・監督・脚本・撮影:ピ−タ−・ハイアムズ 原作:ア−サ−・C・クラ−ク デザイン:シド・ミ−ド 音楽:デヴィッド・シャイア SFX効果:リチャ−ド・エドランド 出演:ロイ・シャダ−/ジョン・リスゴ−/ヘレン・ミレン/ボブ・バラバン/ケア・デュリア
★今や映画史上の傑作となってしまった「2001年宇宙の旅」の続編という、あまりにも畏れ多いプロジェクトに敢然と挑戦したのは、「カプリコン・1」や「アウトランド」といったSF作品も手掛けているP・ハイアムズ。なんと監督のみならず脚本・撮影・製作まで担当し、男の気概と意地を見せつける。前作で未解決だったモノリスの正体や、ディスカバリー号のその後に決着をつけるべく、アメリカ人科学者らを乗せたソ連の宇宙船レオーノフ号が木星へ向けて旅立った。前作にも登場していたフロイド博士が主人公となり(役者はウィリアム・シルヴェスターからR・シャイダーに交代)、彼が目撃するボウマン船長(前作同様K・デュリア)の幻影を交えながら、大宇宙の深遠で起ころうとしている奇跡が描き出される。もはや“映画”のワクすら超えた感のある「2001年宇宙の旅」と比較するのは野暮、これは前作にインスパイアされた番外編なのだ。監督に全てを一任したクラーク、それに応えたハイアムズ、考えるだに恐ろしいプレッシャーの中、本格的な宇宙SFドラマを構築しえたハイアムズの力量こそを見よ! レオーノフ号とディスカバリー号の間に渡されたブリッジのシーンにおける、足元に広がる宇宙空間の無限の広がり、ディスカバリーに到着しヘルメットを脱ぐ瞬間の恐怖と、思わず船内の臭いをかぐ仕草など、前作では稀薄だった“宇宙における人のリアクション”を重視したディテールなど、これこそ宇宙SFドラマの真骨頂であろう。劇中、ボウマンがフロイドに語る“何か素晴らしい事が起ころうとしている”というメッセージは、新たなる生命の誕生、両大国の和解だけでなく、この作品の完成そのものを暗示していたような気さえするのだ。<allcinema>

◎「2001年宇宙の旅」冒頭、モノリスにより道具の使用を学んだ猿人がそのことで内なる凶暴性に目覚めるシ−ンのニンゲンを馬鹿にした思想に腹が立って、“二度と観るものか!”と思ったのだったが、この「2010年」の作者ピ−タ−・ハイアムズはその“人類はその凶暴性によって自滅するであろう”という救われぬ思想に答えを出そうとしてこの作品を企画したのかと思える。それにしてもこのリアルで壮大な美術と撮影の見事さは脱帽モノである。そして米ソの対立を巧みに絡ませて最後にはモノリスを創った存在の謎と意味を明らかにさせてくれた脚本(これも作者による)の巧みさと、木星の惑星ユ−ロパに再び生命の種子を植えつけ、その傍らにひっそりとモノリスを配したラストの再び人類に謎かけをしたハイアムズの悪戯心に感嘆させられたことだった。呑気呆亭

10月24日(土)「アマデウス」

アマデウス」('84・米)監督:ミロス・フォアマン 原作・脚本:ピ−タ−・シェ−ファ− 撮影:ミロスラフ・オンドリチェク 音楽監督:ネヴィル・マリナ− 出演:F・マ−リ−・エイブラハム/トム・ハリス/エリザベス・ベリッジ
モーツァルトの死をめぐる豪華絢爛な舞台劇を、見事にフィルムに転化した傑作。物語はかつて宮廷音楽家だったサリエリの回想から入り、モーツァルトの人物像を追っていくのだが、そこに様々な音楽的見せ場やミステリーの要素を散りばめ、一瞬たりとも飽きさせない造りになっている。ヴォルフガング・アマデウスモーツァルトに一世一代の快演を見せるT・ハルス、妬みと誇りの共存するサリエリに扮したエイブラハム(アカデミー主演男優賞)の芝居も見事。<allcinema>

◎初見時にはトム・ハリス演ずるモ−ツアルトの余りと言えばあんまりな軽薄さにやや辟易したものだったが、今回見直してみてその印象は映画の軽快に描かれた前半しか記憶に残さなかったことによったのだと知った。実にこの作品の見どころはモ−ツアルトがオペラに挑戦し始める後半部分にある。「フィガロ」から「ドン・ジョバンニ」「魔笛」へとまったく色合いの異なる傑作オペラを生み出すには、さすがの天才モ−ツアルトにしてもその神与の才の大部分を使い尽さねばならなかった。その絞られ尽した力の最後の一滴をサリエリの企んだ「レクイエム」の制作によって消耗したモ−ツアルトは、神に愛された者に相応しい無残な死を遂げて見事に人生の帳尻を合わせたのだった。エンドロ−ルに流されるピアノ協奏曲の哀切なメロディがフォアマンのモ−ツアルトへの思いのすべてを語っているかのようだった。呑気呆亭

10月23日(金)「ペイル・ライダ−」

「ペイル・ライダ−」('85・米)製作・監督:クリント・イーストウッド 脚本:マイケル・バトラ−/デニス・シュリアック 撮影:ブル−ス・サ−ティ−ズ 音楽:レニ−・ニ−ハウス 出演:クリント・イーストウッド/キャリ−・スノッドグレス/マイケル・モリア−ティ/シドニ−・ペニ−/リチャ−ド・キ−ル/ジョン・ラッセル
★鉱山主に牛耳られているカリフォルニアのある町。そこに、鉱山主に抵抗する一家があった。顔役の圧力が増大する中、この町に一人の男が現れる。プリーチャーと呼ばれたその男は、一家を助けて、顔役の支配から町を解放しようとするが……。C・イーストウッドが三役をこなして、往年の西部劇を復活させたような作品で、主人公の設定などは自作の「荒野のストレンジャー」のリメイクに似たニュアンスもある。
 カリフォルニアのカーボン峡谷。ここも他の峡谷と同様に、鉱山会社を経営するラフッド一家によって乗っ取られようとしていた。そんな状況下、この村に住む少女ミーガンと母のサラ、そして彼女の婚約者ハルは、ラフッド社の嫌がらせを受けていたのだった。だがある時、救世主のごとく一人の流れ者が現われる。そして、彼が次に姿を現わした時には牧師の装いだったことから、プリーチャーと呼ばれることに。一方、ラフッド社は決着をつけようと保安官たちを使って攻勢に出る。こうして、町中でプリーチャーと保安官たちが相まみえ、激しい銃撃戦が始まるのだが…。<allcinema>

◎蒼白い馬に乗って現れるイ−ストウッドの登場が謎めいていて期待を抱かせるのだが、その不死かと思わせる強さは“そりゃあねえだろう!”というくらいのもので、だんだんやっつけられる連中のほうが気の毒になってくる。黒澤の「用心棒」の面白さは三十郎が傷つくこともある生身であることから来たのであって、それゆえに醸し出されるサスペンスとユ−モアがドラマにリアルさを与えていた。また、演出家イ−ストウッドの失敗は少女ミ−ガンと母のサラとの余計な交情を付け加えてしまったことにある。呑気呆亭