10月28日(水)「2010年」

「2010年」('84・米)製作・監督・脚本・撮影:ピ−タ−・ハイアムズ 原作:ア−サ−・C・クラ−ク デザイン:シド・ミ−ド 音楽:デヴィッド・シャイア SFX効果:リチャ−ド・エドランド 出演:ロイ・シャダ−/ジョン・リスゴ−/ヘレン・ミレン/ボブ・バラバン/ケア・デュリア
★今や映画史上の傑作となってしまった「2001年宇宙の旅」の続編という、あまりにも畏れ多いプロジェクトに敢然と挑戦したのは、「カプリコン・1」や「アウトランド」といったSF作品も手掛けているP・ハイアムズ。なんと監督のみならず脚本・撮影・製作まで担当し、男の気概と意地を見せつける。前作で未解決だったモノリスの正体や、ディスカバリー号のその後に決着をつけるべく、アメリカ人科学者らを乗せたソ連の宇宙船レオーノフ号が木星へ向けて旅立った。前作にも登場していたフロイド博士が主人公となり(役者はウィリアム・シルヴェスターからR・シャイダーに交代)、彼が目撃するボウマン船長(前作同様K・デュリア)の幻影を交えながら、大宇宙の深遠で起ころうとしている奇跡が描き出される。もはや“映画”のワクすら超えた感のある「2001年宇宙の旅」と比較するのは野暮、これは前作にインスパイアされた番外編なのだ。監督に全てを一任したクラーク、それに応えたハイアムズ、考えるだに恐ろしいプレッシャーの中、本格的な宇宙SFドラマを構築しえたハイアムズの力量こそを見よ! レオーノフ号とディスカバリー号の間に渡されたブリッジのシーンにおける、足元に広がる宇宙空間の無限の広がり、ディスカバリーに到着しヘルメットを脱ぐ瞬間の恐怖と、思わず船内の臭いをかぐ仕草など、前作では稀薄だった“宇宙における人のリアクション”を重視したディテールなど、これこそ宇宙SFドラマの真骨頂であろう。劇中、ボウマンがフロイドに語る“何か素晴らしい事が起ころうとしている”というメッセージは、新たなる生命の誕生、両大国の和解だけでなく、この作品の完成そのものを暗示していたような気さえするのだ。<allcinema>

◎「2001年宇宙の旅」冒頭、モノリスにより道具の使用を学んだ猿人がそのことで内なる凶暴性に目覚めるシ−ンのニンゲンを馬鹿にした思想に腹が立って、“二度と観るものか!”と思ったのだったが、この「2010年」の作者ピ−タ−・ハイアムズはその“人類はその凶暴性によって自滅するであろう”という救われぬ思想に答えを出そうとしてこの作品を企画したのかと思える。それにしてもこのリアルで壮大な美術と撮影の見事さは脱帽モノである。そして米ソの対立を巧みに絡ませて最後にはモノリスを創った存在の謎と意味を明らかにさせてくれた脚本(これも作者による)の巧みさと、木星の惑星ユ−ロパに再び生命の種子を植えつけ、その傍らにひっそりとモノリスを配したラストの再び人類に謎かけをしたハイアムズの悪戯心に感嘆させられたことだった。呑気呆亭