10月31日(土)「特別な一日」

特別な一日」('84・伊=仏)製作・監督・脚本:エット−レ・スコラ 脚本:ルッジェロ・マッカリ/マウリツィオ・コンスタンツェ 撮影:パスカリ−ノ・デ・サンティス 音楽:アルマンド・トロバヨ−リ 出演:ソフィア・ロ−レン/マルチェロ・マストロヤンニ/ジョン・バ−ノン
★限定された状況をきわめて映画的なドラマに作り替える名人、E・スコラの、鮮やかな手並みが鑑賞できる作品である。ムッソリーニ支配下のローマで、アパートの住人全てがファシスト集会に出向いた後に残された主婦と、官憲に追われそこに忍んでいた反ファシストの男の、一日だけの恋を描く。ほとんど密室劇に近い内容だが、アパートの外観の取り入れ方が、ヒッチコックの「裏窓」を思わせて見事である。二大俳優の熱演(特に倦怠期の女を演じるローレンが絶妙)と相まって、官能のスリルを細やかに表現している。<allcinema>

◎家族全員をヒットラ−を歓迎する特別な祭日である集会に送り出して、ホッと一息つきながら散らかされたキッチンを物憂げに片付け始める主婦。熱狂的なファシストである夫に同調して集会に出る気にはならない主婦は、己の裡に潜むマグマのように沸き上がってくるモノの正体にまだ気付いていない。その主婦が立ち働くキッチンから見える向かい側の窓の部屋には自殺を決意した男が最期の仕事かと思われる封筒の宛名書きをしている。大通りで開かれている集会からは絶え間なく大衆を扇動する演説と音楽が聞こえてくる。1羽の九官鳥の縁が主婦と男を偶然に出会わせる。九官鳥とは何か。言葉を告げるモノの謂か。ファシズムに同調することが出来ずに疎外された男との出会いが、主婦に己の裡に噴き上げるマグマの正体を次第に気付かせて行く。それは怒りだったのだ。坦々とした言葉のやり取りと聞こえてくるファシストの狂騒が静かに男と女の間にサスペンスを盛り上げて、男にとっても女にとってもこの出会いの日を「特別な一日」としたのだった。男と決別してキッチンに帰った主婦は、朝方集会に出て行った家族を平静な面持ちで出迎えるのだが、彼女はもう今朝の主婦ではなくなっていたのだった。呑気呆亭