7月10日(金)「荒木又右衛門〜男たちの修羅」

「荒木又右衛門〜男たちの修羅」('94・TV東京=俳優座)ゼネラルプロデュ−ス:東野英治郎 原作:長谷川伸 演出:奥村正彦 脚本:吉田剛 撮影:坂本典隆 音楽:梅林茂 出演:加藤剛/奥田瑛二/平淑恵/細川敏之/大橋吾郎/岡野進一郎 
封建社会の中で、誠実に生きようとした武士とその妻たちの悲劇を「鍵屋の辻」を題材に描く。岡山藩の若侍・又五郎は、小姓・源太夫と口論し、源太夫を殺して江戸へ逃げる。源太夫の兄・数馬は敵討ちのため脱藩し、義兄の荒木又右衛門に助太刀を頼み又五郎を追う。だが14年前の因縁が絡み、藩や旗本を巻き込んでの修羅になる。

長谷川伸の文庫本(徳間)上下冊に及ぶ長編をかなり忠実にドラマ化したテレビ東京の作品。荒木又右衛門を演じた加藤剛は柄に合っていて、長谷川伸が原作で描こうとしていた武夫(もののふ)像を見事に演じていた。ラストの血闘もかなり原作に忠実で、荒木が強敵・河合甚左衛門(細川敏之)を先ず斃すために、馬に乗った甚左衛門の左足首を切り落し、ついで馬の腹下をくぐって甚左衛門の右側に抜け、とっさに刀を抜こうとした甚左衛門の右足を鐙ごと掬い上げた。たまらず甚左衛門は馬上から落ちたが左足首を切り落とされているので片足立ちで刀を構える。荒木は真綿帽子を被った甚左衛門を真っ向から一撃して戦闘力を奪う。槍の半兵衛は荒木の従者武右衛門と孫右衛門が自らも傷付きながら斃す。残るはこの一件の元兇となった河合又五郎と河合数馬の一騎打ち。
「鍵屋の辻の仇撃は今の時間で午前八時に始まり、終ったのは午後二時に近い。そのころの時間でいって三刻、今の六時間。時間の長さだけでも稀有な試合である。」(「荒木又右衛門」)
荒木は二人の決闘には手を出さず、自分の闘い以降の五時間を数馬を励まし又五郎を叱咤しつつ見守り続けた。この緊迫の時間が荒木又右衛門の命数を縮めたのだという。映画では荒木は何処とも知れぬ海岸を旅支度で立ち去って行くのだった。呑気呆亭