11月18日(水)「冬の旅」

「冬の旅」('85・仏)監督・脚本:アニエス・ヴァルダ 撮影:パトリック・ブロシュ 音楽:ジョアンナ・ブリュドヴィッチ 出演:サンドリ−ヌ・ボネ−ル/マ−シャ・メリル/ステファヌ・フレス/ヨランド・モロ−/ジョエル・フォッス
★実話を基にした、アニエス・ヴァルダ監督作品。少女がひとり、行き倒れて寒さで死んだ。誰に知られる事もなく、共同墓地に葬られた少女モナ。彼女が誰であったのか、それは彼女が死ぬ前の数週間に彼女と出会った人々の証言を聞くほかなかった。そして映画は、バイクの青年たち、ガソリン・スタンドの主人、さすらいの青年ダヴィッド、山にこもって山羊を飼う元学生運動のリーダー、病んで死んでゆくプラタナスを研究する女教授マダム・ランディエなど様々な人々の証言を元に、彼女の軌跡を辿ってゆく……。これは現代社会にとって“自由とは何か”という、これまであまりに語られすぎた、あまりに汚れきった観念を、新しく洗い直し、とことんまで正面から追求しようという姿勢に満ちた作品である。がゆえに、決して夢物語の様な陳腐な形で“自由”というものを扱ってはいない。この現代社会で、真の自由を得ることがいかに難しく、そして過酷な事であるかが、切々と語られているのだ。そして真の自由を得る為に欠くことの出来ない、表裏一体の、“孤独”というものにも、その視点は同等のスポットをあてており、それらを変な感情移入をせずに、引いた視点で淡々と描いている。これほどまでに“自由”と“孤独”というものをキチンと描いた映画は他に見た事がない。本作は、公開当時は余りスポットを浴びなかった作品ではあるが、実に素晴らしい、傑作といえる作品である。<allcinema>

◎ヴァルダにしては粗末な味の映画を作ったものだ。実話を基にしたとのことだが、そうした姿勢はしばしば実話であることに寄りかかって、何を語っても許されると思いこんでしまう。この浮浪者の少女は文明の周辺をうろつき廻ってそのおこぼれかすめて楽に生きて行くことしか考えていない。旅をしているらしのだがやたらヒッチハイクで車に乗りたがる。その旅路には目的地が無く狭い範囲を堂々巡りをしているようだ。描かれるのは彼女がその周辺をうろつき廻る文明生活という惨めな三文芝居でしかなく、決して自然の厳しさの中に踏み込もうとしない。冒頭ヴァルダは“少女は海から来たのではないか”として冬の海から上がる少女の姿を効果的な音楽とともに描くのだが、ラストでは、“嘘をつけ!”と言いたくなるほどの味気なさを感じたのだった。呑気呆亭