9月23日(水)「恋におちて」

「恋におちて」('84・米)監督:ウ−ル・グロスバ−ド 脚本:マイケル・クリストファ− 撮影:ピ−タ−・スシツキ− 音楽:デイブ・グル−シン 出演:ロバ-ト・デニ-ロ/メリル・ストリープ/ハ−ベイ・カイテル/ダイアン・ウイ−スト
★いくつになっても変わることのない恋愛感情を、デ・ニーロとストリープの名優共演で描いた大人の純愛(不倫)映画。クリスマス・イヴのニューヨークの書店で運命的な出会いをしたフランクとモリー。ふたりは同じ通勤列車に乗り合わせた事をきっかけに急速にお互いを意識し始め、デートを重ねる度に精神的にも魅かれ合って行く。だが、それぞれには申し分のない家庭があり、いけないと思いながらも互いの感情を抑えられなくなってきた頃、双方の家族に浮気がばれてしまう……。おしゃれで上品なニューヨーカーの生活ぶりを生かし、それでいて“十代の恋”のような切ない感覚を思い起こさせる素晴らしい脚本が雰囲気を盛り上げる中、二人の演技が実に自然なムードで展開するまことにロマンチックな大人の恋愛作品。キメの細かい二人の心情描写(駅でモリーを待つフランクの描写や、着て行く洋服に迷うモリーなど)を積み重ね、ゆっくりと次第に大きくなっていく二人の感情を描き出した監督の力量も素晴らしい。また、デ・ニーロの“普通のおじさん”ぽい姿や、ストリープの柔らかな美しさもいい。<allcinema>

メリル・ストリープという女優は不思議な人である。その演技を見ていると書かれた台詞以外の言葉がその全身から雄弁に発声されているような思いにとらわれる。この映画では濃やかな演出とあいまって殊にそれを感じた。彼女は恐らくその役柄に撮影中は四六時中憑依されたかのように生きているのではなかろうか。それゆえに道ならぬ恋が父親の病状の悪化をもたらしたのではないかという不合理な罪の意識にとらわれるモリ−の葛藤をまるでその人のように演ずることが出来たのであろう。それにしても吹き来る風に髪をなびかせて昂然と恋に立ち向かおうとするモリ−の姿は、まるで獲物につかみかかるライオンのように猛々しく美しい。メリル・ストリープは奇跡の女優である。呑気呆亭