6月12日(金)「天守物語」

天守物語」('95・松竹京都)監督・主演:板東玉三郎 原作:泉鏡花 脚本: 撮影:藤澤順一 音楽:唯是震一 美術差配:小池直美 出演:宮沢えり/宍戸開/南美江/市川左團次/島田正吾
★「天守物語」は「外科室」「夢の女」に続く三本目の板東玉三郎監督作品である。しかも、今回は玉三郎自ら主演し、さらには二役を演じるほど思いのこもった作品でもある。それは、玉三郎が常に体現してきた女形の美と、泉鏡花の原作にあるこの世には存在し得ない、つまり幻想の美との間に、あい通ずるものが、あるからだろう。
 今回の映画は玉三郎が富姫を演じる「天守物語」が、'77年の初演以来繰り返し上演されてきた'94年上演版をなぞったものだ。SFXシ−ンは敢えて最低限に抑え、様式美を追求したおかげで、幻想の世界の味わいが濃くなり、玉三郎、宍戸開、宮沢りえといった俳優たちの美しさが生きて、静謐な反面、激しさも秘めた独特の映像に仕上がっている。(VHSの解説)

宮沢りえ玉三郎にからむシ−ンは歌舞伎をそのままキャメラに写しただけの演出で、映画的なモノが少しも感じられない。宍戸開の若侍が登場するころから漸くダイナミックな展開が見られるのだが、いかにも歌舞伎をそのまま移しただけの物語であって、何のためにこの原作を映画化したのか頷けないのだった。呑気呆亭