4月3日(金)「ビリ−・ザ・キッド/21才の生涯」

「ビリ−・ザ・キッド/21才の生涯」('73・米)監督:サム・ペキンパ− 製作:ゴ−ドン・キャロル 脚本:ルディ・ワーリッツア− 撮影:ジョン・コロキン 音楽:ボブ・ディラン 出演:ジェ−ムズ・コバ−ン/クリス・クルストファ−ソン/ジェイソン・ロバ−ズ/ジャック・イ−ラム/ボブ・ディラン/スリム・ピケンズ/L・Q・ジョ−ンズ/リタ・ク―リッジ
ニューメキシコ。無法者のビリー・ザ・キッドは、仲間たちと奔放な日々を送っていた。そんなある時、彼の前に友人でもある保安官のパット・ギャレットが現われ、この町からの立ち退きを警告してくる。ところが、ビリーはその警告を無視したため逮捕されるハメに。それでも隙をみて、まんまと脱獄するビリー。一方、内心管轄外であるメキシコへ逃げてほしいと願いつつビリーを追うギャレット。しかし、ビリーは元の町へ戻って新しい仲間や女性と出会い、そこに居座り続けるのだった。やがて、ギャレットが様々な手掛かりをもとに追いつめてくる中、ビリーはついにメキシコへと渡る決心をするのだが…。
バイオレンス・アクションの天才ペキンパーが、ビリー・ザ・キッドを題材に“ロスト・ウエスト”の哀感を描く。彼の作品群の中では地味な仕上がりの部類に入るが、生き急いだ一人の若者の青春をあますところなく表現している。ビリーの心情をよく理解していながら、結局彼と対決せざるを得ない保安官パット・ギャレットをJ・コバーンが渋く渋く演じている。<allcinema>

◎公開当時はコバ−ンが最初の登場で羽織っていたコ−トの格好良さに憧れて、同じモノを手に入れられないかと散々探したものだった。初見での衝撃はキッドと副保安官の決闘シ−ンで、相手が十歩を数える前に撃ってくることを予想してキッドが銃を構えたまま待ち受け、案の定マトモに撃ち合ってはかなわないと思った副保安官が八歩で振り向いたところを撃ち殺す場面であった。それとやはりラストのギャレットが上半身はだかのキッドを撃ち殺す場面も衝撃的であった。
今回、DVD二枚組のスペシャル・エディションを手に入れ、劇場版ではカットされていた冒頭のギャレットが暗殺されるシ−ンを見ることが出来て、なるほど“殺す者は殺され、狩る者は狩られるのだ”という、西部に生を受けたペキンパ−が心の底に据えていた思想を納得することが出来たのだった。この特別版を見ながら、脱獄したキッドを追うギャレットが、まるで殺し合いを避けるかのように一見無意味なエピソ−ド(筏のシ−ンなど)を積み重ねながらわざと遠回りをしてフォ−ト・サムナ−へ向かい、キッドもまた立ち寄ったアラモサ・ビルの家で彼が副保安官になっていたためにやむなく決闘をしたりと、これまた一見無意味なエピソ−ド(エリアス=ディランとの出会いなど)を重ねながらメキシコへ逃げるでもなく荒野を彷徨っている。その課程でジャック・イ−ラムやスリム・ピケンズといったペキンパ−作品ではお馴染みの役者さんたちが次々に荒野に屍を晒して行くのを見ながら、ああこれはペキンパ−の美しい西部とそこに生きた男たちに捧げる一編のレクイエムだったのだということが腑に落ちたのだった。この作品以降ペキンパ−が遂に西部劇を撮らなかったことを思えば、ディランの♪ノック・オン・ヘブンスドア♪がこの作品のテ−マ曲に採用されたのは実に象徴的であったと言えよう。呑気呆亭