3月12日(木)「ア・ホ−マンス」

「ア・ホ−マンス」('86・東映=キティ・フイルム)監督・脚本:松田優作 原作:狩撫麻礼/たなか亜希夫 脚本:丸山昇一 撮影:仙元誠三 音楽:奈良敏博/羽山伸也 出演:松田優作/石橋凌/平沢智子/手塚理美/工藤栄一/ポ−ル牧/阿木燿子
★ヤクザ同士の対立しあう新宿の街に、ふらりと現れた過去の記憶を持たない男。廃屋に住むようになったその男はいつか“風(ふう)さん”と呼ばれるようになった。街の女との心の触れ合い。抗争のさなかにいるはみ出しヤクザとの間に生まれる奇妙な友情。その一方ヤクザの抗争は激化し、“風さん”もその中に巻き込まれて行く…。
諸事情によって主演の松田優作自身が監督した作品。静かに淡々とストーリーが進んで行く中、突然起こる暴力シーンは観る者に激しい衝撃を与える。セリフのほとんどを裏声の棒読みで喋るポール牧はまさに怪演!
<allcinema>

◎初監督作品としては上々の出来である。松田優作監督は映画初出演の石橋凌に演技をするなと言ったそうだが、その演出意図がスタッフ・キャストに理解されているために、ポ−ル牧の怪奇なエロキュ−ションも全体から浮き上がらずに効果を上げていた。石橋凌の風来坊に抱く友情を坦々と見せる演技にも好感が持て、映像の凝り方にも破綻がなく、「探偵物語」から「遊戯シリ−ズ」を経て鈴木清順森田芳光作品を経験して来たことの蓄積が、松田優作という人物を確実に成熟させて来たのだと思う。もし、病を得て夭折することがなかったならば、日本のイ−ストウッド、いやそれ以上の映画人になり得たのではなかろうか。日本の、いや世界の映画界にとって惜しまれる彼の死であった。呑気呆亭