12月20日(土)「陽炎座」

陽炎座」('81・シネマ・プラセット)製作:荒戸源次郎 監督:鈴木清順 原作:泉鏡花 脚本:田中陽造 撮影:永塚一栄 美術:池谷仙克 音楽:池内紀 出演:松田優作/大楠道代/中村嘉葎雄/加賀まりこ/楠田枝里子/大友柳太郎/麿赤児/原田芳雄
★「ツィゴイネルワイゼン」の大成功を受けてシネマ・プラセットが製作した泉鏡花原作の映画化。「ツィゴイネルワイゼン」のスタッフ、田中陽造、永塚一栄が再び参加し、異色の“フイルム歌舞伎”を作りあげた。鈴木清順の大ファンだったという松田優作が念願の主役を演じ、大楠道代との背中合わせのセックス・シ−ンが話題となった。新派の劇作家がナゾの女と出会う。その女を追ううちに、いつしか現実をふみはずし、劇作家は夢の世界にとりつかれてゆく。ノスタルジアと妖気のただよう大正ロマネスクの雰囲気に包まれて、奔放華麗な色彩と映像美が躍動する、まさに清順美学の決定版。91年製作の「夢二」と合わせ“大正浪漫三部作”の1本。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎大楠、中村、原田などの怪優たちに囲まれると優作やまりこのふつう振りが際立ってしまって、どうしてもこの清順ワ−ルドの中では浮き上がって見えてしまう。特に優作の場合はこの並び立つ怪優たちに対抗しようとしてか、不必要な胴間声を発し、無理やりコミカルな演技をしようとして文字通りズッコケて見せたりして、彼のファンの一人としては見るに忍びないモノがあった。原田は今回はあまり目立たなかったが、中村嘉葎雄の怪人ぶりは堂に入っていて、袖の一振りで幕下の優作を土俵下に投げ捨てるかのような横綱相撲を見せてくれた。しかし、それ以上に見事だったのは清順=鏡花の世界にもう昔から棲んでいたかのような大楠道代の存在感であった。その美しさ、その表情、その所作は眺めているだけで映画を見る歓びを存分に味あわせてくれる。とくにラストの少年(?)女形の舞いを受けての人形振りの踊りは見事というしかなく、色々と齟齬が目立ったこの映画を鮮やかに締め括ってくれたのだった。呑気呆亭