12月4日(木)「ひまわり」

「ひまわり」('70・伊)監督:ビットリオ・デ・シ−カ 脚本:チェザ−レ・サヴァッティ−ニ/トニ−ノ・グエッラ/ゲオルギ・ムディバニ 撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ 音楽:ヘンリ−・マンシ−ニ 出演:ソフィア・ロ−レン/マルチェロ・マストロヤンニ/リュドミラ・サベリ−エワ/アンナ・カレナ
★燦々と輝く太陽に向かい、誇らしげに大輪の花を咲かせるひまわりを男と女に例え、第二次世界大戦という厚い壁で運命を狂わされた男と二人の女のラヴ・スト−リ−が綴られていく。マンシ−ニによる哀切きわまりないメイン・テ−マはあまりにも有名。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎ナポレオンが敗れたロシアの冬将軍に独伊の連合軍も敗退する。その敗残の兵士たちの過酷な撤退の模様を描くシ−ンが胸に迫る。立ち止まれば3分で凍り付いてしまう雪原を歩いて越えて行かねばならぬ。大半は銃も捨ててしまった兵たちの中に傷付いたアントニオ(マストロヤンニ)もいた。もう歩けないと雪原に突っ伏したアントニオに立って歩けと肩を貸し続けて来た戦友は励ますのだが、生きる気力を失ったアントニオは手を振って“行ってくれ”と最後の意思を示すのがやっとだった。戦友はじっとアントニオを見詰め、何かを思い切ったかのような表情を見せてアントニオに背を向け、行進する兵士たちの列に加わって行く。ナチスはその雪原に戦死者たちを埋め、ロシアの農民たちがそこにひまわりの種を蒔いたのだという。“桜の樹の下には屍体が埋まってゐる!”というが、このひまわり畑には兵士の怨念が埋まっているのだ。生き残りイタリアに帰還したこの戦友にジョバンナは“何故見捨てたの!”と怒りをぶつけるのだが、それはこの惨禍を知らぬ者の言葉であって、生き延びた者の傷口を暴く心ない言い様でしかなかった。生きる意思を自ら閉ざしてしまったアントニオの弱さは、ジョバンナとの結婚後の行動にも暗示されていたが、ロシアの娘に救われた後の二人の女の間を揺れ動く心の弱さがにもそれが見られたのだった。こうした役を演ずるときのマストロヤンニは絶妙の巧さを見せる。ラスト、列車の窓越しに見せるアントニオのジョバンナに向けて見せる表情の哀切さは忘れられないモノであった。呑気呆亭