11月28日(金)「ウイル・ペニ−」

「ウイル・ペニ−」('67・米)監督・脚本:トム・グリ−ス 撮影:ルシアン・バラ−ド 音楽:デビッド・ラクシン 出演:チャ−ルトン・ヘストン/ジョ−ン・ハケット/ドナルド・プレザンス/ベン・ジョンソン/ブル−ス・ダ−ン/リ−・メジャ−ス/スリム・ピケンズ
★西部劇=無敵のガン・ファイタ−、という従来のイメ−ジを一掃。盛りを過ぎたひとりのカウボ−イの人生の悲哀を、静かで清らかな恋を織りまぜ描出。ウエスタン映画史に大きな影響を与えた、味わい深い人間ドラマだ。幼いころから、だれの手も借りずにたったひとりで生きてきた生粋のカウボ−イ、ウイル・ペニ−。そんな彼も、そろそろ年を感じはじめた。仲間ふたりとの旅の途中で、ヒョンなことから、ならず者のクイント一家との争いに巻き込まれてしまう。以来、ウイルを執拗につけ狙うクイント一家。再三の襲撃で、ついに重傷を負わされたウイルを、献身的に看護するキャサリンに、彼は今まで味わったことのない愛と安らぎを覚えるが・・・。気が荒く無骨な男たちの世界。一匹狼同士の熱い友情、そして生涯安住することなく荒野を漂流し続ける宿命を背負った流れ者の悲哀を、C・ヘストンが渋味の効いた男っぽさを漂わせて好演している。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎ヘストン演ずるペニ−が料理番のオッサンから保存食のビスケット盗みをたしなめられるという情けないシ−ンから、寒さに凍えて起きてきて十年一日のごとく味の変わらぬ豆料理を腹に詰め込んで仕事に向かうという冒頭に丁寧に描かれたシ−ンを通して、カウボ−イの生活というモノがこれほどに過酷で寄る辺ないものだということを見せてくれた映画を他に知らない。せっかくありついた冬の仕事を若い者に譲って、仲間と冬を過ごす職を求めて旅に出て、狩の獲物争いのことから銃撃戦に巻き込まれ、重傷を負った仲間(リ−・メジャ−ス)を馬車に乗せて医者のいる町を目指すのだが、途中一杯やりに寄った酒場の亭主と怪我人が町まで持つかどうか50ドルの賭けをする。その怪我人がこの世の名残にウイスキ−を呑みたいとウイルに頼むのだが、そのウイスキ−たるやとんでもない代物で、腹に銃創を負った怪我人が“ウッ”といって飲み下すシ−ンには腹を抱えた。怪我人に掛ける毛布もなく運び込んだ医者の家で、医者が“これでは怪我で死ぬより凍死するよ、無理に身体を伸ばすな折れちまう”といって、まず身体を温めるシ−ンではまた腹を抱えた。実はこれがラストの重要な伏線になっているのだが、ともかくこのトム・グリ−スのユ−モラスで丁寧な演出には恐れ入った。ヘストンとハケットの交情も好ましく、ハケットの息子に抱きつかれたときのヘストンの嬉しいような恥ずかしいような困惑した表情はまさに見物で、余り好きではなかったヘストンという俳優を見直す思いがしたことだった。撮影のルシアン・バラ−ドは、二年後の「ワイルド・バンチ」でペキンパ−と組むことになるのだが、この映画にもすでにペキンパ−好みの役者さんたちがズラリと顔をそろえて作品に厚みを加えている。呑気呆亭