11月29日(土)「2001年宇宙の旅」

2001年宇宙の旅」('68・米)製作・監督・脚本:スタンリ−・キュ−ブリック 原作・脚本:ア−サ−・C・クラ−ク 撮影:ジェフリ−・アンスワ−ス/ジョン・オルコット 特殊撮影:ダグラス・トランブル 出演:ケア・デュリア/ゲイリ−・ロックウッド/ウイリアム・シルベスタ−
★公開当時は賛否両論を呼んだものの、今や映画史上のベストテンに必ず入る、殿堂入りの名作SF。人類の夜明けから月面、そして木星への旅を通し、謎の石版“モノリス”と知的生命体の接触を描く。一応のストーリーはあるが、映画はその物語性を放棄し、徹底した映像体験で構築されている。猿人の眼前に屹立するモノリス、それに触れた猿人が骨を武器として用い他の猿人を打ち殺し、空高く放り投げられた骨は一瞬にして宇宙船へと変わる--その、史上最も時空を超えたジャンプ・カットを後に、舞台は宇宙へ移行する。『美しき青きドナウ』や『ツァラトゥストラはかく語りき』といったクラシックをBGMに、悠々と描き出される未来のイメージ。そして、木星探査船ディスカバリー号での淡々とした日常業務。やがてコンピュータHAL9000に異変が起こり、ボウマン船長は光り渦巻くスターゲイトをくぐり抜けスター・チャイルドとして転生する……。訳知り顔で、作品の根底に眠る意味を解く必要はない。座して体験せよ、そういうフィルムなのだ。
<allcinema>

◎何度も見てその度に妙な感銘とある種の違和感を受けてきたのだが、先日チェコの「イカリエ・XB-1」を見て始めて長年の違和感が解消した。
イカリエとはイカロスのことで、その名を冠された宇宙船は亜高速で航行していて目的地はアルファ・ケンタウリ星系の惑星である。機内には夫婦者や恋人同士など男女同数のクル−が乗り込んでいる。目指す惑星に向かうイカロスは暗黒星から放たれる未知の放射線に曝されて乗員すべてが意識を失う危機に陥るのだが、その暗黒星との間に立ちはだかった不思議な壁状のモノのお陰で危機から脱することができた。その直後、機内では飛び立つ前から妊娠していた夫婦者から「スタ−・チャイルド」が生まれるという喜びがはじけ、それは「壁」を作って地球からの使者を迎えようとする惑星の善意をも暗示して、墜落を免れたイカロスはアルファ・ケンタウリ星系の惑星に向かって飛行して行くのだった。
以上のように'63年製作のこの作品には「壁」も「スタ−チャイルド」も既に登場しているのである。そして延べられている思想も「2001年」よりもはるかに明解で肯定的なモノであって気持ちの良い印象が残る。
さて、今回見直そうとして冒頭の「モノリス」のシ−ンを見ていて急に腹が立ってきた。弱虫の猿がモノリスに触れることによって「智恵?」を獲得し、手近に転がっている動物の大腿骨を武器として手に掴み、水場から敵対する猿群を撃退する。それだけならまだ良いのだが、それまで仲良く共存していたアリクイに似た動物を殺してその肉を食い始める。これでは「モノリス」はニンゲンに「悪」を注入するためにその場に置かれたとしか思えないではないか。“ニンゲンを馬鹿にするなよ!”と腹が立って、見るのをそこで止めてしまったのだった。もうこの映画を見直すことは決してないだろう。呑気呆亭