9月11日(木)「イカリエ・XB-1」

イカリエ・XB-1」('63・チエコ)監督・脚本:インドウジヒ・ポラ−ク 撮影:ヤン・カリ−シュ 音楽:ズデニェク・リシュカ 出演:パヴェル・コラ−チェク/ズデニェク・シュチュバ−ネク/フランチェスカ・スモリ−ク/ダナ・メドジッカ−/イレナ・カチ−ルコヴァ
★スタニワフ・レムの「マゼラン星雲」は、30世紀の社会主義ユートピアを舞台にしています。この時代、人類は太陽系のすべてを植民地化しており、ケンタウルス座アルファ星系に向け、初の恒星間飛行を試みます。「ゲア」という宇宙船に227人の男女が乗り込み、8年間にわたる飛行の後、プロキシマ・ケンタウリを回る惑星のひとつで生命反応を見つけます。三重連星であるアルファ星系に属する惑星のひとつが、知的生命体によって生命が生存できる環境に変えられたのか? 物語には、アトラントスというヒューマノイドが出てきますが、これは冷戦下のアメリカと北大西洋条約機構をそれとなく描いたものだそうです。
 この小説は「IKARIE XB 1(邦題:イカロスXB1号)」という題で、1963年に旧チェコスロバキアで映画化されています。63年というと日本で東宝が「妖星ゴラス」を公開した1年後ですね。もっとも話の舞台は30世紀から2163年の22世紀に変更され、物語もかなり変えられています。レムも映画化には乗り気ではなかったそうですが。日本ではNHKの衛星第2チャンネルで「イカリエ−XB1」というタイトルで放映されたことがあるそうで、御覧になった方もいるかもしれません。
(「スタニスワフ・レム氏追悼ブックレビュ−sf-fantasy.com」より)

◎上記の説明にあるように邦題がイカリエでは何のことか分からないが、イカロスということであれば、ギリシア神話の、蝋で鳥の羽根を固めて翼をつくり空を飛びながら、父の警告を忘れ高く飛びすぎて太陽の熱で蝋を溶かされ墜落死したイ−カロスの寓話から来ているのだと分かる。この宇宙船はアルファ・ケンタウリ星系を目指して亜高速で航行するために時間の流れが地球上より緩やかなために、地球に帰還すると「浦島太郎」状態になることが分かっている。目的地はアルファ・ケンタウリ星系の惑星である。機内には夫婦者や恋人同士など男女同数のクル−が乗り込んでいる。途中、20世紀に地球から飛び立って同じ星系を目指したと思われる難破船を発見するのだが、未だ野蛮な戦闘性から脱していない思想によって組み込まれた自爆システムに巻き込まれて2名の乗員を失う。目指す惑星に向かうイカロスは暗黒星から放たれる未知の放射線に曝されて乗員すべてが意識を失う危機に陥るのだが、その暗黒星との間に立ちはだかった不思議な壁状のモノのお陰で危機から脱することができた。その直後、機内では飛び立つ前から妊娠していた夫婦者から「スタ−・チャイルド」が生まれるという喜びがはじけ、それは「壁」を作って地球からの使者を迎えようとする惑星の善意をも暗示して、墜落を免れたイカロスはアルファ・ケンタウリ星系の惑星に向かって飛行して行くのだった。
途中、旅の無聊をなぐさめるために企画された「ダンス・パ−テイ」のシ−ンで、タキシ−ドとドレスの男女が踏む一種奇妙なステップが、いかにも30世紀ですよといっているようで面白かった。
'68年のキュ−ブリックの「2001年宇宙の旅」と比べても遜色のないSF映画がこの時点でチャコスロバキアで作られていたことに驚く。語られる思想も「2001年」よりも明確で、すでに「スタ−・チャイルド」を登場させていたことも驚きだが、その意味は本作の方が「未来」を暗示していてより肯定的で明瞭なものであった。呑気呆亭