9月10日(水)「パサジェルカ」

「パサジェルカ」('63・ポ−ランド)監督・脚本:アンジェイ・ムンク 原作・脚本:ゾフィア・ポスミシェ 撮影:クシシュトフ・ヴィニェウィチェ 音楽:タデウシュ・バイルド 出演:アレクサンドラ・シュロンスカ/アンナ・チェビエレフスカ/ヤン・クレチマ−ル
★61年9月に交通事故死したムンクの未完の作品が、友人たちの手でスチールで補われ、簡潔に補完された作品で、結末は暗示的に締めくくられている。大戦中、ナチス親衛隊将校として強制収容所にいたリザ(シュロンスカ)は戦後結婚して、豪華客船での新婚旅行に出るが、船中で囚人だったマルタ(チェピェレフスカ)と再会。そして、当時を回想する。彼女にはたぶんに同情的であったつもりのリザだった(同性愛的傾向をほのめかす)が、マルタの受け止め方は全く違った。彼女の態度は毅然としてリザに対し糾弾的ですらあり、仲間たちの精神的支柱でもあった。映画はこの二人がお互いかつての主従関係にあった同士と認め、いよいよ、現在の時点からその過去と対決していこうと向かい合う緊張したムードの中終わる。もちろん、その続きが見たくなるが、同時に、尻切れに終わる余韻の中に浮かんでくるものも多々あった。回想部分はほぼ撮り終えていたと言われ、船上での場面の一部がスチール構成になっている。非常に密度の濃い、心理ドラマの傑作だ。<allcinema>

◎ポ−ランド人のムンクがナチの映画を作ろうとして、なぜこのような強制収容所に於ける親衛隊将校の女看守と女囚の倒錯した心理劇を撮ったのかが頷けない。ワイダもカワレロウイッチも題材として取り上げることのなかった強制収容所ムンクが取り上げるについては、相当の覚悟があっただろうと想像するが、真っ向からこの題材に取り組むのではなくいわば搦め手からの作劇に終わったのは、女囚マルタにユダヤの雰囲気が感じられないことも含めて、ポ−ランドという国の立ち位置の複雑さを思ったことだった。呑気呆亭