9月4日(木)「悪徳の栄え」

悪徳の栄え」('63・仏)監督・脚本:ロジェ・ヴァデム 原作:マルキ・ド・サド 脚本:ロジェ・バイヤン 撮影:マルセル・グリニヨン 音楽:ミシェル・マ−ニュ 出演:アニ−・ジェラルド/カトリ−ヌ・ドヌ−ブ/ロベ−ル・オッセン/O・E・ハッセ
★サドの代表作『悪徳の栄え』『美徳の不幸』を、ナチス支配下時のフランスに置き換えてヴァディムが撮った、バロック的官能美に満ちた傑作。美貌と大胆さでナチ将軍の情婦に成り上がる姉ジュリエットにA・ジラルド。レジスタンスの恋人を奪われ、姉のもとに直訴に来たところを、冷酷な将校シェーンドルフに見そめられ、高官の慰み者に仕立て上げられる無垢な妹ジュスティーヌにC・ドヌーヴ。妹が幽閉されるスイス国境の騎士館は同じ境遇の女たちの“園”と化していて、その辺りの描写にヴァディムのイズムが覗く。姉と将校の屈折した関係の捉え方も巧い。甘美なテーマ曲がドラマを盛り上げ、歴史の大波に翻弄される健気なヒロインを際だたせる。可憐だが堂々としたドヌーヴ。ヴァディムに私生活の上でも愛されているせいか、カメラを見つめる瞳のゆらめき、艶めき、尋常でない。<allcinema>

◎少なくとも原作のマルキ・ド・サド公爵は一連の著作によって、人間性の奥底にひそむ悪と善を描こうと努めたと思うのだが、その原作の意図を活かすために物語の舞台をナチズムの終焉間近の欧州大陸に移したと、監督ロジェ・ヴァデムは麗々しくも映画冒頭の字幕に綴る。やたらに挿入される戦争の実写フィルムと、フランスを占領したナチ高官たちのダラダラとした悪徳三昧(?)の物語がモンタ−ジュされて、戦争映画としても人間ドラマとしてもどっち付かずの半端な作品になってしまった。なにより噴飯物なのは、ヒロイン・ドヌ−ブが不能の親衛隊員の大尉(だったっけ)に守られて遂に未犯に終わるという、まったく観客の期待を裏切る結末となったことであった。サド、ヴァデム、ドヌ−ブという組合わせを見れば、観客はどうしたって彼女の美貌がどんな風に踏みにじられ、美徳の仮面がどう剥がされ、どんな変貌を見せるに至るかを期待するではないか。それがこんな中途半端な映画になってしまったのは、ヴァデムのドヌ−ブに対する過保護故だったのだろうか、それともヴァデムの作家性の欠如によるものだったのだろうか。呑気呆亭