8月19日(火)「鬼火」

「鬼火」('63・仏)監督・脚本:ルイ・マル 原作:ドリュ・ラ・ロシェル 撮影:ギラン・クロケ 音楽:エリック・サティ 出演:モ−リス・ロネ/アレクサンドラ・スチュアルト/ジャンヌ・モロ−
★この映画で、主演のM・ロネが体現する虚無を親しく思うティーンエイジャーがいたら、少し時期尚早だと言おう。ただ、彼の歳に近づけば、なんらネガティヴな理由なく(アル中になって療養所から出たばかりという負の要素も抱えてはいるが)、何もなすべきことがない(見つからない)という不安から死にゆこうとするブルジョワ青年の彼を、あながち贅沢だと否定もできないだろう。人間、30にもなれば人生が見えてきてしまう。そんな苦渋が、この、自殺志願者の最後の二日間を痛々しくスケッチする作品には溢れていた。ラスト、拳銃と戯れながら、残りの人生の可能性を模索するかのように、ぼんやり思案にくれる青年。しかし、解答はもう出ているのだ……。彼の魂の彷徨にぴったり寄り添うように流れるエリック・サティの『ジムノペディ』が、ささやかに、しかし、雄弁にその心情を語っていた。<allcinema>

◎モ−リス・ロネが「死刑台のエレベ−タ−」のルイ・マルと、クレマンの「太陽がいっぱい」を間に挟んで再び組んだ作品であることを考えると、この「鬼火」での青年像を造形するロネのキャリアの深まりと、ルイ・マルの腰の据わった演出とが、この異様に美しい緊張感に満ちた作品を作り出したのだと思った。魂の彷徨とは実にこうした軌跡を描いて墜ちて行くのだと、その彷徨に寄り添って映像を記録し続けるキャメラと音楽とが、観る者に「若者」の一典型を鮮やかに呈示してくれた。呑気呆亭