8月8日(金)「真剣勝負」

「真剣勝負」('71・東宝)監督:内田吐夢 原作:吉川英治 脚本:伊藤大輔 撮影:黒田徳三 美術:中古智 音楽:小杉太一郎 出演:中村錦之助/三國連太郎/沖山秀子/松山秀明/田中浩/岩本弘司
内田吐夢の「宮本武蔵」五部作の番外編とも位置づけられている作品。剣豪・宮本武蔵と宍戸梅軒の死闘を描く。この作品が内田の遺作となった。脚本は伊藤大輔。撮影は黒田徳三が担当。
夕刻。宮本武蔵は、鈴鹿の山の奥深く、雲林院の荒野に建つ宍戸梅軒の家を訪れていた。梅軒と妻のお槙は鎖鎌に興味を示す武蔵に対し、酔った後に身包み剥いで追い出そうと画策するのだが、酒を酌み交わすうちにお槙の兄・辻風典馬を斬った相手ということが判明する。夜半、梅軒の手下八人衆が武蔵を襲おうとするが、風の変化を感じていた武蔵は既に見切っていた。ここに武蔵対梅軒・お槙との闘いが始まるのだが、八方から攻めてくる分銅の攻撃に業を煮やした武蔵は、お槙が背負っている赤ん坊を奪い駆け出してゆく…。<allcinema>

★「飢餓海峡」「血槍富士」などで知られる巨匠・内田吐夢の遺作となった作品。代表作の「宮本武蔵・五部作」のあとに作られた、宮本武蔵・番外編という感じで、武蔵とくさり鎌の名手宍戸梅軒の死闘をたたみかけるようなスピ−ドで描いた作品。もう以前のように大作を撮れなくなった内田吐夢が、低予算ながらもその力を発揮し、一般的なチャンバラ時代劇の枠にはおさまらないような特異な作品を作りあげ、高い評価を得た。チャンバラそのものよりも戦う男の気迫と哲学を描いた内容で、5部作に展開された武蔵の生きざまが凝縮されたような迫力。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎風車がカラカラと回っている。風車は荷馬を引く異様な風貌の男の髪に差し込まれて奇妙な対照をなしている。男は鎖鎌の名手宍戸梅軒。この風車は梅軒の心根に潜む優しさを表わし、風にカラカラと回ることで後に武蔵に敵の気配を知らせるという役割を果たす。見事な小道具の使い方である。そしてその風車を土産に貰う赤子の太郎が、今度は梅軒夫婦と武蔵との決闘シ−ンで重要な役割を果たす。梅軒夫婦の鎖鎌の連続攻撃に辟易した武蔵は、夫婦の太郎にそそぐ愛情を利用して夫婦の連携に亀裂を入れるべくお槙の背から太郎を奪いとり、膝に抱えて梅軒を挑発する。梅軒は息子に当らぬように分銅を投げるのだが、それを見たお槙が太郎を救うべく梅軒の鎖に己の分銅を絡ませる。怒った梅軒はお槙を縛り上げ杭に繋いで武蔵に向かおうとする。してやったりと武蔵は足場の良い場所に退き、梅軒と己の間に太郎を置いてまたしても梅軒を挑発する。間合いを縮められない梅軒に焦りが生まれ、猪突した梅軒は武蔵の鞘ごと抜き取った大刀に鎖を絡ませてしまう。武蔵は大刀の鞘を地面に突き刺し、もはや是までと生死を決すべく鎌を振り上げて迫る梅軒の打ち込みを、鞘から抜いた大刀で受止め、同時に左手で抜いた脇差しで梅軒の左拳を斬る。冒頭で梅軒が両手を使わぬ剣術使いを嘲ったことへの武蔵の返答であった。すなわち“二刀流開眼”である。梅軒夫婦の息子への愛をおもんばかってか、伊藤大輔の脚本は梅軒と武蔵の決闘の顛末を描かず、内田吐夢も太郎の笑い顔のアップにエンドマ−クを被せて物語を終えたのだった。呑気呆亭