8月7日(木)「家族」

「家族」('70・松竹大船)監督・原作・脚本:山田洋次 脚本:宮崎晃 撮影:高羽哲夫 音楽:佐藤勝 出演:井川比佐志/倍賞千恵子/笠智衆/前田吟/花沢徳衛/ハナ肇/渥美清/三崎千惠子/春川ますみ
★九州・長崎の小さな島を出て、北海道の開拓村へ向かう5人家族の姿を描く異色のロ−ド・ム−ビ−。途中子供が急死する事件以外、あくまで日常的なドラマ性を排除したシナリオ。そして、まるでドキメンタリ−のようなさめたカメラワ−クが秀逸だ。'70年に開催されていた万国博覧会を観光映画的な描き方ではなく、高度経済成長の象徴としてスト−リ−に組み入れ、主人公一家の貧しさと対比させた演出も実に的確。山田洋次の力量が感じられる。ラストで、北海道にたどり着いた一家が祖父の死にもめげずたくましく生きて行く姿が、この作品のテ−マを十分に伝えている。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎役者というものは実に不思議な人種だ。南の果ての長崎県の小さな島を後にして、北の果ての北海道に向かう祖父と夫婦と息子と娘の五人が、高度経済成長期に突入しようとしている日本列島を縦断する旅には、胸を圧するほどのリアリティがある。彼らは笠でも倍賞でも井川でもない貧しく素朴でカトリックの信仰を持つ家族として大坂や東京といった大都会の中を漂流する。この家族が折しも開催されていた「大坂万博」の雑踏に巻き込まれるシ−ンでは、ちょっと間違えば一家離散しかねない彼らの物慣れぬ行動にハラハラさせられて、“路頭に迷う”という恐ろしい言葉をつい思い出したりして、映画をみてこの言葉を思ったのは「自転車泥棒」を見て以来だったなァと、変な感慨を持ったことだった。幼い娘を旅の途中で亡くした時と祖父を亡くした時に、倍賞が被るレ−スの髪飾りがカトリック信仰というより、島に連綿として伝わってきたのであろう切支丹の信仰を思わせて印象的であった。呑気呆亭