8月6日(水)「緋牡丹博徒・お竜参上」

「緋牡丹博徒・お竜参上」('70・東映京都)監督・脚本:加藤泰 脚本:鈴木則文 撮影:赤塚滋 美術:井川徳道 音楽:斎藤一郎 出演:藤純子/菅原文太/嵐寛寿郎/若山富三郎/三原葉子/天津敏/沼田曜一/長谷川明男/山岸映子
藤純子扮する“緋牡丹のお竜”こと矢野竜子が主役の「緋牡丹博徒」シリーズ6作目。監督は3作目の「緋牡丹博徒 花札勝負」でもメガホンをとった加藤泰。同作の流れを引き継いだストーリーで、雰囲気のある浅草界隈を作り出した美術監督の井川徳道によるセットも見もの。藤純子が迫力ある、そして静かな任侠の女を見事に演じている。雪の今戸橋、お竜が常次郎を見送り、ミカンを渡すシーンは圧巻。
お竜は、数年前に亡くなった偽のお竜ことお時の娘、君子(お君)を探して旅を続けていた。渡世人の青山常次郎から情報を得て浅草に向かったお竜は、その界隈を取り仕切っている鉄砲久の一家に草鞋を脱ぐ。同じ浅草を縄張りとして取り仕切っている鮫洲政の一家との対立の中、スリとして生きていたお君と再会を果たす。両家の抗争はますます白熱していくのだが…。<allcinema>

◎誰もが言うように「雪の今戸橋」のシ−ンの美しさは見る度に心を動かされるが、今回見直してみて発見したシ−ンがある。カメラは据えっぱなし。舞台奥にこちらに背を向けたお竜がおり、手前に銀治郎(長谷川)とお君(山岸映子)がいて、銀治がお君とのことを廻りの人たちに語り始める。その中の一人に三原葉子(クレジットに役名も記されていない)がいる。三原は話の最中にポンカンのようなものをモグモグと食べ続けている。銀治がソコヒを患ったお君の目を治すために医学校へ行ったのだが学費が続かなくなってとうとうこんな稼業に入ってしまった、と語ると、ソコヒという言葉にピクッとお竜の肩が動き、此方を振り向く。お竜は探していた君子こそこのスリのお君だと直感し、お君の手を執って我が顔を触らせる。君子が記憶しているのはその手の感触だけだったからだ。お君はナンだこのオバサンはと抵抗するのだが、手が触れた瞬間に“お竜のオバチャン”の記憶を甦らせる。この一連のシ−ンの間中、お君とお竜を囲んだ役者たちの揺れ動く波のように反応する芝居は見事で、中でも袂からいくつもポンカンを取り出してはモグモグと口に運びながら、次第に昂まってゆく感情に耐えかねてついに貰い泣きをしてしまうという一連の三原の演技は、同じ加藤泰作品である「沓掛時次郎・遊侠一匹」での、渥美清の朝吉をあしらいながらサツマイモを喰らう女郎のそれを思い出させたのだった。三原葉子、凄まじい役者である。そして、加藤泰という監督の凄さ!呑気呆亭