8月5日(火)「心中天網島」

心中天網島」('69・表現社=ATG)製作・監督・脚本:篠田正浩 原作:近松門左衛門 脚本:富岡多恵子 脚本・音楽:武満徹 撮影:成島東一郎 美術:粟津潔 出演:岩下志麻/中村吉右衛門/小松方正/滝田裕介/藤原釜足/加藤嘉/浜村純
篠田正浩が10年来構想を練っていた近松門左衛門浄瑠璃を映画化。脚本に詩人の富岡多恵子と音楽家武満徹が参加している。紙屋治兵衛は、女房子供のある身で女郎・小春と深いなじみになり、ついには女房を捨て小春と情死行に至る。前半の浮世絵の複写や、巨大な文字の壁などで構成されたユニ−クなセットが舞台となり、後半の道行きや心中の場面はロケ撮影となっている。墓地での濃厚なラヴシ−ンや、最後の鮮烈な心中シ−ンに治兵衛と小春の情熱的な愛と生が象徴的に表現される。成島東一郎の白黒の映像と、武満の音楽が独特の雰囲気を作っている。女房と小春の二役をこなす岩下志麻の演技も高く評価された。(ぴあ・CINEMA CLUB)

篠田正浩という監督はあまり好きな作家ではないのだが、10年来構想を温め続けていたというこの作品は、脚本も美術も撮影も音楽もすべてが完璧で文句の付けようがない。近松作品を映画化した他の作品と比較してみると、篠田が近松を単なる時代劇としてではないものとして撮ろうとして悩んだ果てに思いついたのが、舞台では無視されねばならぬ黒子を画面に登場させるという逆転の発想ではなかったかと思う。このことによってこの映画の世界は何処にも所属しない不思議な異空間となったのだった。呑気呆亭