7月25日(金)「アラバマ物語」

アラバマ物語」('62・米)監督:ロバ−ト・マリガン 原作:ハ−パ−・リ− 脚本:ホ−トン・フ−ト 撮影:ラッセル・ハ−ラン 音楽:エルマ−・バ−ンスタイン 出演:グレゴリ−・ペック/メリ−・バ−ダム/フィリップ・アルフォ−ド/ブロック・ピ−タ−ス/ロバ−ト・デュヴァル
★ピューリッツァ賞を受賞したH・リーの『ものまね鳥を殺すには』を劇作家H・フートが脚色(オスカー受賞)、後に「サンセット物語」や「レッド・ムーン」などの社会派ドラマを多く手掛ける製作パクラ=監督マリガンのコンビが映画化した問題作。不況の風吹く1932年、南部のアラバマ州。幼い息子と娘を抱える弁護士フィンチに、暴行事件で訴えられた黒人トムの弁護の任が下る。だが偏見根強い町の人々は黒人側に付いたフィンチに冷たく当たるのだった…。映画はフィンチの子供たちを通して、父親の苦難や町の横暴を極めて客観的に描く事に成功しており、問題意識を振りかざさず、しんみりと心に染み入らせるものになっている。ペックは心強い父親像をよく出しており、アカデミーの主演男優賞に輝いた。黒人弁護のストーリーと並行して、近所に住む精神異常者ブー(R・デュヴァル)と子供たちの関係も描出されるが、これが物語の終息で融合し、映画に深い余韻を持たせている。
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◎メリ−・バダム演ずる妹娘は皆にスカウトと呼ばれている。本名は一度明らかにされるが、父も兄も常に彼女をスカウトと呼ぶ。因みに辞書を引いてみるとスカウトとは斥候の意であるとのこと。この映画での彼女の活躍を見るとさもあらんという感じである。映画は常に彼女の視点から描かれていて、怪人ブ−が潜む隣家を初めとして、町並みは子どもの目から見た驚異と謎とサスペンスに満ちた有機的なものとして映像化されていて、誰しもが自分の子ども時代を思い出し、一度は経験したであろう「スカウト=斥候」のドキドキ感を彼女と共に町の中を駆け巡りながら共有するのである。その最たるモノがラストの森の中でのシ−ンで、こんな演出を誰が考えたのか、すべてがハムの縫いぐるみの中からもどかしくも見ていなければならなかったスカウトの眼差しによって語られる。そしてその目が捉えた怪人ブ−の真実の姿がドアの影から姿を現わした時の驚きと、正に純なるものの象徴のような姿を見せてくれたロバ−ト・デュヴァルという若き俳優の、その将来を約束するかのような存在感。子供たちからアティカスと呼ばれて畏敬されるペックと兄のジェムを演じたフイリップ・アルフォ−ドの眼差しの強さと共に、いつまでも心に残るであろう作品でありました。呑気呆亭