7月11日(金)「ひとり狼」

「ひとり狼」('68・大映京都)監督:池広一夫 原作:村上元三 脚本:直居欽哉 撮影:今井ひろし 音楽:渡辺岳夫 出演:市川雷蔵/長門勇/小川真由美/長谷川明男/岩崎加根子/小池朝雄
村上元三の原作を池広一夫監督・市川雷蔵主演で映画化した正統派股旅映画の佳作。“人斬り伊三”の異名をとる一匹狼のヤクザ追分の伊三郎は、博奕も剣の腕も確かでヤクザ仲間からも一目置かれていた。しかし彼には奉公先の主人の娘との仲を裂かれ、許婚の武士を傷つけて逃走したという暗い過去があった・・・。中年ヤクザ・孫八の回想という形式を取り、“人斬り伊三”の過去が次第に浮かび上がってくるという直居欽哉のシナリオ構成はなかなか巧みである。“人斬り伊三”に扮する市川雷蔵は折目正しい演技で時代劇スタ−としての貫禄を示し、晩年の代表作とした。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎リアルタイムで見たときは、伊三郎(雷蔵)の厄介になっている親分宅での振る舞いが、特に食事時の作法が、なるほど正統の渡世人とはこうしたものなのかと、駆け出しの新米ヤクザの長谷川明男とともに瞠目したものだった。見直してみても市川雷蔵という人の人間性から滲み出るのに違いない背筋の伸びた折目正しさがいかにも好ましかった。しかし、今回はラストの伊三郎を横移動で撮ったシ−ンに瞠目した。この風雪を突いて歩む伊三郎は、まさに「狼」そのものだった。呑気呆亭