7月2日(水)「エヴァの匂い」

エヴァの匂い」('62・仏)監督:ジョゼフ・ロ−ジ− 原作:ジェ−ムズ・ハドリ−・チェイス 脚本:ヒュ−ゴ・バトラ−/エヴァン・ジョ−ンズ 撮影:ジャンニ・ディ・ヴェナンツォ 音楽:ミシェル・ルグラン 出演:ジャンヌ・モロ−/スタンリ−・ベイカ−/ビルナ・リ−ジ/リザ・カスト−ニ
★英国の推理作家J・H・チェイスの原作のこの上もない悪女をモローが不敵に演じ切り、ロージーの演出も冴えた、官能のロマンである。元坑夫という経歴の新進作家ティヴィアン(ベイカー)は、婚約者フランチェスカ(リージ)のいる身でありながら、ベネチア社交界の花形であるエヴァの虜になり、彼女のために幾人もの男が身を滅ぼしたと知りながら、激しくのめり込んでいく。彼が労働者出身であるのをエヴァが嘲るところなど、ロージー一流の逆説的なブルジョワ批判となっていて、言葉なぶり自体にぞくぞくしながらも唸らされる。やがて、フランチェスカを死に追いやり、友人たちにも見捨てられたティヴィアン。結局は、他の男同様に彼も、魔性の女エヴァに捨て去られる運命なのだ…。ラスト、一人モーター・ボートを駆って運河を去っていくモローが颯爽と美しかった。彼女の衣裳は当時恋人だったP・カルダンのデザインで、M・ルグランがジャズィな音楽を担当。ビリー・ホリデイの唄う“柳よ泣いておくれ”が印象的な使われ方をしていた。
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◎窓際に立って光をうけるモロ−の横顔の美しさ。ティヴィアンに語った11歳の頃の経験は、すぐに嘘よと打ち消したものの、その前後のティヴィアンとの会話から察すれば実際のものであったのだろう。11歳で天涯孤独の身となったエヴァは、己の美しさだけを武器に男たちを食いものにしながら生きてきたのだろう。それだけにエヴァがティヴィアンに向かって言い放つ“負け犬っ!”の台詞が複雑なニュアンスをもって響くのだが、単なるオスでしかないティヴィアンにはその光と影の屈折するニュアンスは決して理解することが出来なかったのだ。呑気呆亭