6月10日(火)「5時から7時までのクレオ」

「5時から7時までのクレオ」('61・仏)監督・脚本:アニエス・ヴァルダ 撮影:ジャン・ラビエ 美術:ベルナ−ル・エバン 音楽:ミシェル・ルグラン 出演:コリンヌ・マルシャン/アントワ−ヌ・ブ−ル・セリエ/ミシェル・ルグラン/ジャン=クロ−ド・ブリアリ/アンナ・カリ−ナ
シャンソン歌手のクレオは、ブロンドの髪も美しい若い娘である。彼女はガン恐怖症で、その日の7時に出る診察結果を待っている。今は5時。時間つぶしの占いは不安な気持ちをかき立てるし、恋人と会っても無神経な態度に苛立つばかり。友達の作曲家ボブが持ち込む歌の詩も、哀しくてやりきれなくなる…。あてもなく公園をさまよう彼女は、アルジェリアから休暇で戻った兵士と出会う。再び戦場に駆り出される彼の苦悩は、自分の不安を覆って波立つ心を静めてくれた。クレオの二時間の彷徨にカメラがつきあって、パリの街を闊歩する、ヴァルダのシネマ・ヴェリテ的手法が新鮮な、デビュー第二作。M・ルグラン、A・カリーナなどのにぎやかな友情出演に、前作から5年の歳月を経て新作に挑むヴァルダの才能への、熱い支持が確認できる。
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◎何かと世話を焼き自分を子供扱いする叔母の存在に嫌気がさして、クレオは衣装を白から黒に着替えて独り街に出る。嘗て一緒に志を抱いてパリに出てきた友人のアンナを訪ねて、医師の宣告を受ける7時までの時間をともに過ごそうとするのだが、未だに裸のモデルでしかないアンナとその同居人の元に居たたまれず、タクシ−を捨て公園に彷徨い入る。そこでクレオは休暇でアルジェリアからパリに戻って、今日はまた戦場に旅立たなければならないアントワ−ヌに出会う。しつこく話しかけるアントワ−ヌをクレオは警戒して避けようとするのだが、どこか憎めないその風貌と物言いに次第に惹かれるモノを感じ始める。彼と話をする内にクレオクレオという名がクレオパトラから来ている綽名であること、本名はフロランスというのだと告げる。アントワ−ヌは権高いクレオパトラよりも春の女神であるフロランスの名の方が貴女に相応しいとクレオにささやく。この会話からクレオの表情がなごみ始めて、病院を訪ねるために一緒に乗ったバスの窓越しに、アントワ−ヌが花売りから抜き取った白い一輪の花を捧げると、一気にクレオの表情のこわばりが消えて生気を取り戻すのだった。冒頭のタロット占い師が見て取りながらクレオには告げなかった死相が、この一輪の花とクレオからフロランスへの改名によって打ち払われたのだ。流れるような映像の彷徨によってパリの街とこの時代相を見事に映し出した、これはヴァルダの傑作である。呑気呆亭