5月28日(水)「甘い生活」

甘い生活」('60・伊)監督・原案・脚本:フェデリコ・フェリーニ 脚本:エンニオ・フラヤ−ノ/トゥリオ・ピネリ/ブルネロ・ロンデイ 撮影:オテロ・マルテッリ 音楽:ニ−ノ・ロ−タ 出演:マルチェロ・マストロヤンニ/アニタ・エクバ−グ/アヌ−ク・エ−メ/アラン・キュニ−
★強烈な通俗性の中に、豊潤な映像美学を開花させ、一つの大都市をこれだけ魅力的に捉えた作品は他にない。この映画の主役は間違いなくローマそのものだ。無論、M・マストロヤンニという最適の語り部を用意してはいるが。作家志望の夢破れて、今はしがないゴシップ記者のマルチェロは豪華なナイトクラブで富豪の娘マッダレーナ(A・エーメ)と出会い、安ホテルで一夜を明かす。ハリウッドのグラマー女優(A・エクバーグ)を取材すれば、野外で狂騒し、トレビの泉で戯れる。乱痴気と頽廃に支配された街ローマ。同棲中のエンマは彼の言動を嘆く。二人で訪れた友人スタイナー一家の知的で落ち着いた暮らしぶりを羨むマルチェロだが、彼らも子連れの無理心中で突如死に、残るは絶望の実感のみ。いよいよ狂乱の生活に没入するマルチェロは海に近い別荘で仲間と淫らに遊び耽る。彼らが享楽に疲れ果てた体を海風にさらす朝、マルチェロは波打ち際に打ち上げられた怪魚の、悪臭を放って腐り果てるさまを凝視した。彼方で顔見知りの可憐な少女ヴァレリアが声をかけるが、波音に消されて聞こえない。かくて純粋な青春の時は終わったのか…。素晴らしいラストシーンを持った、フェリーニにしか描けない都市のデカダンスが弾ける。N・ロータの音楽も多様な変奏を聴かせ、映画と完全に溶け合って見事。<allcinema>

◎フェリ−ニの映画はどうも好きになれない。女とみれば口説くことしか考えないマルチェロ、欲求不満の不感症女マッダレ−ナ、胸ばかりがデカイ女優、口喧しいばかりで可愛げのないエンマ、誰にも感情移入出来ずにあくびをかみ殺しながら映像を見ていた。その中で登場したスタイナ−(キュニ−)のスラリとした長身と背筋の伸びた佇まいに“おやっ!”という新鮮な感じを受けたのだが、不可解な死に方でこの空気の澱んだ舞台から早々に退場してしまう。貴族の館でのデカダンスを尽くしたパ−ティの場面はそれなりに見応えがあったが、夜明けの浜辺に引き上げられた怪魚(エイ)の虚ろな目には、己を取り巻いて覗き込む連中の姿はどれも似たような煉獄をさまよう影としか映らなかったのではなかったか。呑気呆亭