5月10日(土)「運が良けりゃ」

「運が良けりゃ」('66・松竹)監督・脚本:山田洋次 脚本:山内久 撮影:高羽哲夫 音楽:山本直純 出演:ハナ肇/犬塚弘/武智豊子/倍賞千恵子/安田伸/桜井センリ/花沢徳衛/砂塚秀夫/穂積隆信/江幡高志/藤田まこと/渥美清
★落語通の山田洋次が、落語の「ラクダの馬さん」「寝床」「黄金餠」「つけ馬」などを素材に描いた長屋喜劇。落語でもおなじみの熊さんにハナ肇、八っつあんに犬塚弘などクレイジ−・キャッツのメンバ−がバイタリティあふれる庶民を怪演する。(ぴあ・CINEMA CLUB)
★春。向島山谷堀の裏長屋の住人たちは、貧乏ゆえにかえって傍若無人に、人間の姿を赤裸々に見せる。住人は左官熊五郎、相棒の八、因業金貸しのおかん婆、それにクズ屋の久六、按摩の梅喜、頑固でお人好の差配源兵衛。そして八の女房とめと、熊の妹ではきだめの鶴と言われるせい。そんな中で近江屋の若旦邦七三郎は道楽息子ながら、長屋では唯一のエリートだ。せいは美人をみこまれて五万石のお大名赤井御門守に見染められ、お妾奉公にあがるばかりになっていたが、熊が酔払って話をぶちこわしてしまった。だがせいは、長屋に肥汲みに来る吾助に思いを寄せ、二人はいつかくさい仲となった。やがて、秋も近くなった頃、近江屋の主人守兵衛は、源兵衛に長屋の店賃値上げを厳命する。しかし長屋の連中は馬耳東風と聞き流す始末。だが店賃値上げに失敗した源兵衛は、責任を追及されてお払箱になる様子。こんな時に黙っていては江戸っ子の名がすたると熊が一計を考え出し、家主の近江屋がひっくり返る大騒ぎとなった。(goo映画)

◎公開当時、監修に関わった落語評論家の安鶴さんが絶賛していたので見に行ったのだったが、思えばこれが山田洋次作品との最初の出会いであった。一部の正統落語好きには不満を抱くヤカラもあったようだが、普通の落語好きであったワタクシなどは“よくぞやってくれた!”と喝采を送ったものである。同じ落語ネタとしては'57年の川島雄三作品「幕末太陽傳」の方が評価が高いようであるが、あの映画の仄暗い喜劇味よりも、ワタクシ的にはこの映画の野放図な賑やかさの方が好ましい。今回見直してみて気が付いたのはセットの隅々にまで気を配った美術スタッフの見事な仕事と、北斎漫画を使ったタイトルバックの構成の鮮やかさと、のっけからラストまで意表をつく面白さの山本直純の音楽と、ハナ肇の熊さんの或る意味で裏返しのキャラクタ−である若旦邦七三郎を演じた砂塚秀夫の快演であった。こんな傑作が興行的に今一だったとはどうしたことだったのだろうか。呑気呆亭