5月9日(金)「沓掛時次郎・遊侠一匹」

「沓掛時次郎・遊侠一匹」('66・東映)監督:加藤泰 原作:長谷川伸 脚本:掛札昌裕/鈴木尚之 撮影:古谷伸 出演:中村錦之助/池内淳子/渥美清/東千代之介/三原葉子/清川虹子
★戦後股旅映画の最高傑作といえる作品。一宿一飯の義理のために斬った男の女房・子どもを連れて故郷の沓掛村に向かった時次郎が、やくざ渡世の愚かしさを知りつつ、瀕死の重病にかかった男の女房のために一度は捨てたドス握り、戦いの中に自ら飛び込んでいく。やくざの世界の非情さが時次郎の目を通して描かれていて、プロロ−グの、弟分の朝吉(渥美)という一本気なやくざが手柄を立てようとして逆に惨殺されてしまう場面は強烈な印象を残し、怒った時次郎が相手を次々に切り殺すところにも、加藤泰監督の怒りに満ちたまなざしを感じずにはいられない。時次郎役の中村錦之助は絶妙の名演で、殺した男の女房に惚れながらも自分の気持ちを押さえつけるところは、宿屋の女将(清川)に心中を語る場面にみごとに結実されている。また池内淳子も好演し、時次郎の想いを受け止めながらも、惚れてはいけない人と自ら言い聞かせて姿を隠すところなど涙を流さずにはいられない。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎演出の加藤泰と脚本の掛札昌裕/鈴木尚之長谷川伸の原作にはないプロロ−グを付け加える。時次郎を兄貴と慕う身延の朝吉(渥美)は、見え透いた一宿一飯の義理を果たさずに旅に出ようとする時次郎に愛想を尽かし、独り殴り込みを掛けてなぶり殺しに合うのだが、その前の晩にこの世の名残と娼婦を買う。この宿場女郎お松(三原)と朝吉のエピソ−ドが実に好い。三原葉子というタップリした肉体を誇る姐御が、イモなど頬張りながら床急ぎをする朝吉を手玉に取るのだが、三原の大らかな色気が存分に発揮されていて、その観音様のような女にイタサセテ頂いた朝吉の仕合わせが、翌朝の凄惨ななぶり殺しに重なって、その朝吉を死なせた悔いが以降の時次郎の旅に基調低音のように響き続け、殺した男の女房子供との難儀な道行きを錦絵のようなメランコリックな色調で彩るのである。呑気呆亭