4月19日(土)「夜行列車」

「夜行列車」('59・ポ−ランド)監督・脚本:イエジ−・カワレロウイッチ 脚本:イエジ−・ルトフスキ−/他 撮影:ヤン・ラスコウスキ− 出演:ルチ−ナ・ウインニッカ/レオン・ニエンチク/ズビグニエフ・チブルスキ−
スターリン死後の“雪解け”によって、改革成ったポーランドの映画構造は6つの創作集団別のユニット制となった。その代表格がカワレロウィッチ率いる“カードル”で、アンジェイ・ワイダもそこに属した。この作品はそうしたポーランド映画の充実期に作られた、みずみずしさと力強さを合わせ持つ秀作である。年下の男との恋を逃れた主人公マルタは旅に出、ワルシャワからバルチック沿岸に向かう夏の週末の夜行列車に乗り込む。乗客には牧師、弁護士、医師、新婚カップル、不眠症に悩む男などいろいろ。彼女を追う恋人もその中にいた。そして、一人の殺人犯がそこへ紛れ込んだことで起きる波紋をサスペンス豊かに描きながら、それぞれの人生を鋭くあぶりだす。アメリカのジャズの大御所A・ショーの“ムーン・レイ”を、ポーランドモダンジャズの第一人者A・トシャコフスキーが編曲したスキャットのテーマが気怠いムードを煽り立てる。ラスト、終着駅の列車の窓に拡がる北国の夏の海辺の光景が寂寥として美しい。<allcinema>

◎若い頃ア−トシアタ−ギルド(ATG)で公開されたときに観たのが初見。当時のATGの劇場内は映画を勉強するといった雰囲気が濃厚で、高校生だったワタクシなどは隅っこで堅くなっていたのだったが、この映画の有る場面で思わずプッと吹き出して周囲から白い眼を向けられたのだった。
地平線上に停車した夜行列車から男が一人飛び降りる。男は必死に此方に向かって駈けて来る。すると、列車からこぼれ落ちるように多数の男女が現れその女房殺しで手配中の男を追いかけ始める。その内追っ手の誰れかれが石やら土くれやらを男に向かって投げ始める。その内の一つが必死の形相で逃げる男の背中に見事に命中する。ここまでは良くあるパタ−ンだが、カワレロウイッチは此処に奇態なギャグを挿入する。土くれをぶつけられた男が、逃げなければいけない自分の立場を忘れて怒ってしまい、その土くれを拾って石合戦よろしく投げ返したのだった。その投げ返した土くれが追いかける男の一人の禿げ頭に見事に命中してしまう(ボクが吹き出したのはこのときだった)。激高した禿頭の男を先頭にした追っ手に追い詰められ、女房殺しの男は朝靄の景色の中で寄ってたかってボコボコにされてしまう。俯瞰するキャメラが黒々と蝟集した善きサマリア人たち映し出し、興奮と怒りから覚めた人々が身を引いて囲みを解くと、女房殺しの男のぼろ切れのように地に伏した姿が映し出されるのだった。この一連のシ−クエンスには人間性の滑稽と苦さが見事に描出されていたと思う。急いで付け加えれば、トップシ−ンの雑踏するタ−ミナルの俯瞰映像から、ラストの無人の列車を横移動で坦々と映し出す映像まで、全編が心地良い映像と音楽で完璧に織り成されたこの作品は、同じ駅と列車と人間たちを描いたデ・シ−カの「終着駅」に匹敵するモノではないかと、再見して思ったことだった。呑気呆亭