3月20日(木)「灰とダイヤモンド」

灰とダイヤモンド」('58・ポ−ランド)監督:アンジェイ・ワイダ 原作・脚本:イエジ−・アンジェイエフスキ− 撮影:イエジ−・ウオイチェック 出演:ズビグニエフ・チブルスキ−/エヴァ・グジジェフスカ/バクラフ・ザストルジェンスキ−
★アンジェイエフスキ−の同名小説の映画化で、「世代」「地下水道」とともにワイダのレジスタンス3部作を構成している。戦争中は対独レジスタンス運動に青春を燃焼させ、戦後はテロリストとなって悲惨な末路を遂げる青年の姿を描いた傑作。
'45年、ワルシャワ叛乱の生き残りで反ソビエト派のテロリスト・マチェックは、ソビエト帰りの共産党地区委員長シュツカ暗殺の指令を受ける。だが、マチェックは人違いでふたりの男を殺してしまう。シュツカは穏やかな人柄で、彼の息子は反ソビエト叛乱者として逮捕され、銃殺の判決を受けていた。マチェックは夜、息子に会いに行こうとするシュツカの暗殺に成功し、その晩、ホテルでバ−で働くクリスティナという女とベッドをともにする。翌朝、マチェックは町を発とうとするが、衛兵に発見されて撃たれ、ゴミ捨て場で悶え死ぬ。マチェックの悲惨な死にざまは鮮烈であり、平凡に生きようとして果たされなかった青年の悲劇が胸を打つ。永い間、地下水道に潜んでいたために目を傷めたというマチェックの黒眼鏡が印象的である。(ぴあ・CINEMA CLUB)

★色んな映画を見てきたけれど、役者の演技で魂を揺さぶられた映画は少ない。この「灰とダイヤモンド」のチブルスキーの演技には鳥肌がたった。映画史に残る名演であり、マチェックそのものを生きていた。数々のシーンが心に残っているが、特に酒場で同志のアンジェイと死んでいった仲間達のためにグラスに一つ一つ炎をともしてゆくシーンが印象的。(このシーンはワイダ監督も気に入っていたのか、後年の「鷲の指輪」の劇中でも再現している。)一見、悪ぶって軽薄そうなのに、友達思いで、蜂起に理想を抱いていたキャラが浮かび上がる。サングラスもただのファッションではなく、地下活動で目をやられたためである。ノルビッドの詩を暗誦できるくらいの知性もある。それほどの若者が、テロに走り、無惨な最期を遂げねばならなかった時代の悲劇を、チブルスキーはマチェックを通して訴えていたのかもしれない。(彼自身、第二次大戦中はレジスタンス活動をしてた)マチェックの激しさ、哀しみ、夢、理想、愛、苦悩をチブルスキーは体現し、そして役そのままに40歳の若さで死んでいった。〈allcinema jean〉

◎この映画を初めて見たのが18歳の頃であったから、今から半世紀前のことになる。チブルスキ−は実にボクの青春そのものであった。今回NHK・BSで録画しておいたものを見直してみて、マチェックとクリスティナとのラブシ−ンで、事を終えた朝のふたりの裸体に窓から爽やかな風が吹き込んで、その風に曝されたクリスティナのバストの美しさに胸を弾ませた記憶が有ったのだったが、それがこの録画したものにはなかったことに気付いて、あれはボクの幻想だったのだろうかと今更ながらに思ったことだった。以前、このブログでジェ−ムズ・ディ−ンに関連して“アメリカ以外にはヒップスタ−は出現しなかった”などと書いたりしたのだが、これは訂正しなければなるまい。彼マチェック=チブルスキ−こそ大戦後に出現したヒップスタ−の祖型であったことを今回思い知らされたのだった。呑気呆亭