3月15日(土)「馬鹿まるだし」

「馬鹿まるだし」('64・松竹)監督・脚本:山田洋次 原作:藤原審爾 脚本:加藤泰 撮影:高羽哲夫 音楽:山本直純 出演:ハナ肇/桑野みゆき/花沢徳衛/清水まゆみ/犬塚弘/長門勇/小沢栄太郎/三井弘次/渥美清/藤山寛美
山田洋次が自分のスタイルを確立するきっかけになった作品。藤原審爾の原作は、以前にも滝沢英輔監督、森繁久彌主演で「安五郎出世」という題で映画化されたが、山田洋次版「馬鹿まるだし」に先だって、同じ'64年、山田の脚本で同題名のTVドラマが作られている。シベリア帰りの風来坊・松本安五郎(ハナ)は、瀬戸内海の平和な町にある浄念寺に転がり込む。寺には若くて美しい住職の未亡人夏子(桑野)がいて、安五郎はひそかに思いを寄せる。安五郎は持ち前の腕っ節の強さと、「無法松の一生」の芝居をみて涙を流す気のよさで、たちまち町の人気者になり、何人かの子分までできる。ある日、ダイナマイトを持った脱獄囚が、人質を取って山へ逃げ込んだ。安五郎は夏子にいいところを見せようと、単身助けに向かったが、ダイナマイトが爆発し失明する。盲目になった安五郎が涙を流しながら、夏子に思いを語る長回しシ−ンでは、ハナ肇の熱演が光る。このキャラクタ−はのちに“車寅次郎”へと受け継がれる。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎この作品の桑野みゆきは母の女優・桑野通子のバンプ的なキャラクタ−とは違った清楚な美しさを存分に発揮している。彼女がこれほどの魅力を見せた作品はボクには他に記憶がない。縁側に座って安五郎(ハナ)のうつ伏せがちの目の前で足袋を脱ぐみゆきの踵の美しさには思わずフェテッシュな欲望を感じてしまった。安五郎とともに“あっしの心は汚れておりやす”と告白したくなるのであります。呑気呆亭