3月8日(土)「翼よ!あれが巴里の灯だ」

「翼よ!あれが巴里の灯だ」('57・米)監督・脚本:ビリ−・ワイルダ− 原作:チャ−ルズ・A・リンドバ−ク 脚本:ウエンデル・メイズ 撮影:ロバ−ト・バ−クス/J・ペヴァレル・マ−レイ 音楽:フランツ・ワックスマン 出演:ジェ−ムス・スチュワ−ト/マ−レイ・ハミルトン/マ−ク・コネリ−/パトリシア・スミス
★史上初の大西洋横断無着陸単独飛行を行ったチャールズ・A・リンドバーグの自伝回想録を基に、B・ワイルダーがW・メイズと共に脚色、監督した航空映画の、というより人間讃歌の傑作。有力者から資金を募り、ようやく“セントルイス魂”号を作り上げたリンドバーグは、1927年5月、いよいよ大西洋横断に向けてニューヨーク、ルーズヴェルト空港から飛び立った。だが、機上のリンドバーグを待ち受けていたのは、暴風雨や寒さといった自然の猛威、睡魔、そして絶対的な孤独感であった…。単なる伝記映画であろう訳もなく、緻密に構成された脚本と演出が、33時間にも及んだたった一人のドラマを、全くのダレもなく展開させているのは見事という他ない。コックピットに迷いこんだ蝿や、ある少女から手渡された鏡など、小道具の扱い方も巧みで、唸る事必至。ひとつの事に邁進し、それを達成する事の素晴らしさと感動を鮮やかに描き出している。そして、この長丁場を引っ張り続けたJ・スチュワートの好演も記憶せねばなるまい。<allcinema>

◎出演者の名前を書き連ねるのが奇妙に思われるほどに、この映画の印象的な出演者はジェ−ムズ・スチュワ−トと一匹の蠅である。同じような極限状況を描いたドラマとしては邦画にも「太平洋ひとりぼっち」があるが、両者を比べてみるとこの蠅クンや鏡といった細かい仕掛けにおいて負けているようだ。これはやはり脚本の差であろうか。ビリ−・ワイルダ−が常に脚本執筆に手ごわい相手と組むことを好むのは、単独ではどうしてもこうした効果的な思いつきが浮かびにくいと考えてきたからなのではないだろうか。「太平洋ひとりぼっち」の和田夏十の脚本は確かに力作だが、惜しむらくはこうした創意ある仕掛けに欠ける憾みがある。呑気呆亭