3月4日(火)「野いちご」

「野いちご」('57・スエ−デン)監督・脚本:イングマ−ル・ベルイマン 撮影:グンナ−ル・フィッシャ− 音楽:エリック・ノ−ドグレ−ン美術:ギッタン・ダスタフソン 出演:ビクトル・シュ−ストレ−ム/イングリッド・チュ−リン/グンナ−ル・ビヨルンストランド/ビビ・アンデショ−ン/グンネル・リンドブロム/マックス・フォン・シド−
★サイレント期にはハリウッドまで渡った、スウェーデン映画の基礎をなした名匠シェストレムを主演に迎えて、ベルイマンが人間の一生を深く掘り下げた詩編ともいうべき秀作。医師イサクは50年に及ぶ業績を讃えられ、名誉博士号授与に赴く前夜、自分が死ぬ夢を見る。彼は息子夫婦の運転で式場のあるルンドへ向かうが、途中、青年時代を過ごした旧宅に立ち寄り、原っぱの野いちごに、積極的な弟に奪われた婚約者サラ(アンデショーン)を想い出す。その後、彼がめとった妻はくだらない男と密通し、彼を傷つけたのだ。邸を発ってしばらくして、ヒッチハイクの三人組を拾うが、そのうちの一人、女学生のサラ(アンデショーンの二役)は昔の想い人にそっくりで、彼は思うままに過ごせなかった自らの青春を悔いる。次に乗せたのは、彼らの車と事故を起こしかけた夫婦者。しかし、その口論があまりにうるさいので降ろしてしまう。が、再びまどろむイサクの夢で、その無知と人生の空疎さをあげつらうのは、夫婦者の夫だった。イサクはそこで初めて、息子エヴァルドの嫁マリアンヌの苦悩を知る。息子もまた自分と似て厭世的で人生を楽しんでいない……。式典を終えたイサクは、例の三人組の祝いの訪問を受ける。勲章よりもそうした、人とのつながりの価値を思い知ったイサクのその夜の夢は、青春の頃に戻りサラに再会する幸福なものだった。人生が走馬灯のように、とはよく言うが、このように老いて、若き日を回想できるものなのか。そのためにも生きねばなるまいと思わせる映画です。<allcinema>

◎この難解な映画は当時ア−トシアタ−ギルドという運動があったから日本でも公開されたのだったと記憶する。まだ人生の出発点にも立っていなかった青二才に理解できるような代物ではなかった。医師イサクは50年を回顧し、今回ワタクシは50年ぶりにこの映画を見たのだった。さすがに若い頃とは違ってイサクの回想を共感をもってともに生きることはできた。人生とは悔恨の連続であって、夢の中では常に自分の犯してきた失敗と卑怯と卑劣にうなされるのである。青春時代とはなんと残酷な言い方であろうか。呑気呆亭