3月1日(土)「馬鹿が戦車(タンク)でやってくる」

「馬鹿が戦車(タンク)でやってくる」('64・松竹)監督・脚本:山田洋次 原案・音楽:團伊玖磨 撮影:高羽哲夫 美術:佐藤公信 出演:ハナ肇/犬塚弘/岩下志麻/花沢徳衛/飯田蝶子/松村達雄/谷啓/東野英治郎
★“ある男が除隊のときにタンクを納屋に隠しておいて、ある日、それで暴れ出す”という團伊玖磨のひと口話をモチ−フに、山田洋次がシナリオ化。どこかにありそうでどこにもない、日本のとある田舎を設定して、方言まで創作したという凝りようだ。喜劇の体裁をとりつつ、偏見に対する痛烈な批判がうかがえる。それでいて、皆がタンクを追っていったら海の中に消えていたというラストなど、実に詩心のある仕上がりで、山田監督初期の代表作となった。(ぴあ・CINEMA CLUB)

★海釣りに来た中年の男と若い男は、船頭から海辺にある“タンク根”のいわれを聞かされた。その昔日永村は変った人間ばかりが住んでいた。この村はずれに貧しい一家が住んでいた。家族は、少年戦車兵あがりで農器具の修理をしているサブと、オシで頭のよわい兵六、それにツンボの母親とみの三人暮しだ。この“汚れの一家々”といわれているサブたちは村中からのけものにされていた。村には、業つくばりの長者仁右衛門をはじめ、村会議員の市之進、セックスに明けくれる赤八、たねの夫婦。それに最近村に赴任したばかりの百田巡査などだ。なかでも仁右衛門とサブは、寄るとさわると喧嘩ばかりしていた。というのも、戦後農地解放で小作人のサブに分けてやった農地を、欲のつっぱった仁右衛門が取返そうとしているからだ。だが仁右衛門の娘紀子だけはサブ一家の味方だった。紀子は長い間病床にあったが、秋祭りが近づくころには、若い医者新吾の看病で起きあがれるようになった。やがて秋祭り。紀子は二年ぶりで村を歩いた。そんな紀子の姿を何よりも喜んだのはサブであった。紀子に誘われて全快祝いにかけつけたサブだったが、仁右衛門はにべなくサブを追い出した。腹のおさまらないサブは村中を暴れまわり、警察送りとなった。その弱みにつけこんだ市之進は、親切めかしにとみに金を貸しつけ盲判でサブの土地を抵当としてまきあげてしまった。それから数日サブの家から突然旧陸軍のタンクがとび出し、仁右衛門、市之進をはじめとして村中を踏みつぶしていった。が、その時兵六が火の見櫓で鳥の真似をして、櫓から落ちて死んだ。暴れまわったサブは、兵六の死体をタンクに乗せると、いずこともなく去っていったというのだ。−−船頭の話はここで終った。(goo映画)

◎村の連中の造形の面白さが堪えられない。出演順に俳優名を記して記録に留めたい。中年の男=松村達雄、若い男=谷啓、船頭=東野英治郎、百田巡査=穂積隆信、とみ=飯田蝶子、只六=犬塚弘、サブ=ハナ肇、仁右衛門=花沢徳衛、市之進=菅井一郎、赤八=田武謙三、たね=小桜京子、床屋のおやじ=渡辺篤、茂十=天草四郎、大作=常田富士男、郵便配達夫=小沢昭一、紀子=岩下志麻、若い医者新伍=高橋幸司。以上が主な出演者である。村人の一人に常田富士男を配したことで全編を覆う雰囲気が「ニッポン昔話」になっている。今回再見しての発見は、ハナ肇という人には何とも言えない愛嬌があるということだった。紀子の快気祝いに向かうべく、コテコテにポマ−ドで頭を固めて、一張羅を着て家を出るときの手足がナンバになってしまうぎこちなさのギャグは爆笑モノだった。この愛嬌は寅さん=渥美清にはなかったなと思ったことだった。呑気呆亭