1月9日(木)「影」

「影」('56・ポ−ランド)監督・脚本:イエジ−・カワレロウイッチ 脚本:アレクサンドル・スチボ−ル・リスキ− 撮影:イエルジ−・リッポマン 出演:ジグムント・ケンストウイッチ/タデウシュ・ユラシュ
スターリン批判の始まった年に作られた本作は、未だ恐怖政治の影を色濃く落としたスパイ告発映画の形を採っていながら、より本質的な人間存在の不安を見据え、政治に対するある種の諦観をあらわにしている。一人の男が走行中の列車から落ちて死亡する。無賃乗車で逮捕された青年が、男を突き落としたのだと判明する。青年はかつて、政府軍兵士として反革命集団を追っていたとき、味方内部にいたスパイに煮え湯を飲まされていた。その時スパイが、現在の青年の職場でも破壊工作をしていた。青年は男を追ううち、死なせてしまったのである。検死を担当した医師クニーシは、戦争中に体験した事件を思い出す。それは、あるドイツ系の店を二つのレジスタンス隊が襲って同士討ちになった事件で、一人の裏切者の存在がその裏にはあった。そして、その死体は、クニーシを裏切った人物でもあった……。カワレロウィッチらしい暗鬱とした、表現に深みのある傑作ミステリーである。<allcinema>

◎筋が錯綜していて訳の分からない映画である。だが、その訳の分からなさは戦中・戦後のポ−ランドを覆っていた訳の分からなさだと思えばこの作品の難解さはうなずけるのだが、筋立てがややご都合主義なので今一感情移入して見ることが出来なかった。医師クニーシが戦中に遭遇した同士討ちの事件にしても、策戦が大まかで裏切り者につけ込まれても仕方がないと思えてしまうので、その裏切り者に振り回される人々の運命に悲劇性が感じられないのである。呑気呆亭