12月24日(火)「関の彌太っぺ」

「関の彌太っぺ」('63・東映)監督:山下耕作 原作:長谷川伸 脚本:成沢昌成 撮影:古谷伸 美術:桂長四郎 音楽:木下忠司 出演:中村錦之助/木村功/十朱幸代/月形龍之介/岩崎加根子/大坂志郎/夏川静江/上木三津子
★古典的な名作である長谷川伸原作の7回目の映画化。ふとしたきっかけから、みなし子・お小夜をその実家に届け、名も告げず去っていった旅人・関の彌太っぺは。10年後、お小夜一家が彼を命の恩人として探していると知らされるが、ヤクザ渡世の身をはばかって立ち寄ろうともしない。しかし、同じヤクザ仲間の箱田の森介が、昔の恩人と偽ってお小夜の実家に乗り込み、お小夜を苦しめていると知るや、素性を隠してお小夜の前に現れる・・・。ヤクザ渡世に生きてきた男の苦渋と心の優しさを、悲しく美しくうたい上げた作品。特に、彌太郎とお小夜が運命的な再開をする場面がいい。今を盛りと咲きほこるムクゲの花を垣根にして、ヤクザ稼業で傷だらけとなり、変わりはてた彌太郎が、美しく成人したお小夜に“お小夜さん、この娑婆にゃあ、悲しいこと辛れえことがたくさんある。だが、忘れるこった。忘れて日が暮れりゃ、あしたになる”と10年前と変わらぬ言葉をかけ、さっと立ち去っていく。ハッと気づいたお小夜が“旅人さん”と呼び止めようとする場面では、見る者の瞳を潤ますに違いない。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎子供時代のお小夜を演じた上木三津子の素朴さと健気さがなかったら、これほどに名作として語り継がれる映画にはならなかっただろう。そのお小夜が父と母を偲んで街頭に佇んで唄う♪廻りの廻りの小仏は、何故せいが低いなあ、親の日にととたべて、それでせいが低いなあ♪の歌は涙なしに聴くことが出来ない。この歌の挿入は演出の山下と音楽の木下の手柄だったのかと思って調べてみたら、長谷川伸さんの原作にしっかり載っていた。それにしてもこれは名場面である。もう一つの名場面は彌太郎が宿場女郎の岩崎加根子から妹の消息を聞くシ−ンである。演出の山下とキャメラの古谷は暗い画面左隅に背を丸めて炬燵にもぐる彌太郎と、妹の死を告げたことで悲嘆に暮れる彌太郎を見て困惑する女郎の姿を浮かび上がらせる。キャメラはその二人の息遣いに合わせるように少しずつ少しずつ寄って行くのだが、彌太郎の悲しみと女郎の優しさがそのキャメラの移動とともに胸に迫ってきて、これまた涙なしには見ていられない名場面であります。呑気呆亭