11月30日(土)「雁の寺」

「雁の寺」('62・大映)監督・脚本:川島雄三 原作:水上勉 脚本:船橋和郎 撮影:村井博 音楽:池野成 出演:若尾文子/三島雅夫/高見国一/木村功/中村鴈治郎/山茶花究/小沢昭一
★原作は前年に直木賞を受賞した水上勉の同名の小説。洛北衣笠山にあって、厳しい戒律で守られている禅寺、雁の襖絵で名高く俗に“雁の寺”とも呼ばれるその寺の中で、サディステックな住職と愛人のただれた愛欲と、それをのぞき見る不遇な少年僧の虐げられた生活がくり広げられる。少年僧はある日住職を殺害する。
鋭角的でキビキビした川島雄三の演出、独特の角度と構図を見せる村井博の撮影、愛の犯罪ドラマともいうべきサスペンスに満ちあふれたスト−リ−に仕立てた川島と船橋和郎の脚色。そのどれもが驚嘆に値する。そして若尾文子の妖し気なまでの妖艶さは見る者を圧倒する。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎着物をきた女のうなじがこれほどにエロティックなものだとは。里子(若尾文子)のうなじを斜め上の視点から写すキャメラは、その着物の下に隠された爛熟した肢体を剥き出しに暴くかのようだ。その女の肩をなで回す三島雅夫という果報者、こやつ役柄とは云え許せない助平さである。こんな女が身近に居れば師匠だろうと誰だろうと殺して自分のモノにしたくなるのは当然だろう。それにしても少年僧慈念(高見)に体を与えた里子の行為は、間接的に住職の慈海(三島)を殺すことを教唆したと見られかねないが、それを感じさせぬ若尾文子という存在の生まれながらの娼婦性は、同じ川島作品の「女は二度生まれる」の小えんにもあった菩薩性と表裏をなす。呑気呆亭