11月29日(金)「十三人の刺客」

十三人の刺客」('62・東映京都)監督:工藤栄一 脚本:池上金男 撮影:鈴木重平 音楽:伊福部昭 出演:片岡千恵蔵/嵐寛寿郎/西村晃/内田良平/里見浩太郎/丹波哲郎/月形龍之介/菅貫太郎
東映がチャンバラから、任侠ものや実録暴力団路線に移行する課程で生まれた、いわゆる“集団抗争時代劇”を代表する作品である。監督の工藤栄一はこの作品の他に「十一人の侍」や「大殺陣」などこのジャンルでの傑作を撮り、注目を浴びた。
将軍の弟で明石藩主である暴君を権力の座から抹殺するべく、刺客が送られた。刺客たちは明石藩一行をある宿場に待ち伏せし、行く手をふさいで殺戮するべく計画を練る。策士、剣の達人、血気にはやる若者など13人の暗殺隊は、宿場を出口のない迷路に作りかえ、数にまさる明石藩の武士たちを迎えうつ。やがて宿場に到着した獲物と刺客たちの壮絶な死闘が始まった・・・。
宿場のせまい閉じた空間に繰り広げられる死闘と、あちこちに仕掛けられたさまざまな罠をダイナミックなカメラワ−クで描き出し、また個性ある刺客たちのそれぞれの戦いぶりをスピ−ド感あふれる映像にしてみせた工藤栄一の演出は素晴らしく、ラスト十数分の大殺陣は長く語り継がれてゆくだろう。そしてただのチャンバラに終わらず、政治におどらされ殺陣機械と化した侍たちの悲哀をも描いた、テ−マ的にも重厚な大作である。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎この事件の時代設定は弘化元年(1845)、最後の国内戦争であった関ヶ原の戦い(1600年)から245年も経っている。映画の中でも台詞として言われているが、当時その腰に差した刀を使って人を殺傷した経験のあるものは、武士階級にもほとんど居なかったであろう。巧みな居合いの技を見せてくれる平山九十郎(西村晃)にしても同様であったろう。人を切ったことのない十三人の刺客と五十三人の明石藩士たちとの戦いが、この映画によって描写された無様なモノになったのは無理からぬことであったのだ。相手に切られまいとする恐怖は両手に握った刀を剣術などは忘れ去って無闇矢鱈に振り回させる結果となる。しかし、感心するのは(映画だからだが)刺客の側にも藩士の側にも敵に後を見せて逃れ去った者が一人もいなかったということである。刀を失った平山の醜態はやや誇張されているが、突然襲った無防備であるという恐怖によるものであって、軽蔑すべき行動ではなかった。侍というものの強さと潔さと胆知を見せてくれた片岡千恵蔵内田良平月形龍之介嵐寛寿郎の背筋の伸びた姿がいつまでも心に残る作品であった。呑気呆亭