11月27日(水)「放浪記」

「放浪記」('62・宝塚)製作・監督:成瀬巳喜男 原作:林芙美子 脚本:井手俊郎/田中澄江 撮影:安本淳 美術:中古智 音楽:古関裕而出演:高峰秀子/田中絹代/加東大介/宝田明/小林桂樹/草笛光子
林芙美子の自伝的小説を、林文学の翻案では定評のある巨匠・成瀬巳喜男が映画化した作品。主演の高峰秀子は、自由奔放な女性という従来の林像を覆し、貧困と戦いながらのし上がる強い女の側面を強調した。甘い二枚目役で売り出した宝田明が演技開眼。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎原作も舞台も見ていないので、この映画が我が「放浪記」である。高峰秀子という役者さんの喜劇的な才能と並でない演技力に驚く。娘時代の芙美子はまさにブス、貧しくて極度の近視で世の中に受け入れられない娘を、高峰は上目使いの物腰と左肩を下げて足を引きずる歩き方で完璧に表現して見せる。まさに秀逸。惚れた男に次々に失望させられて何度もカフェの女給に戻ってしまう繰り返しには、成瀬の狙った悲喜劇の効果が存分に描写されていて思わず笑わされてしまう。その役立たずの男たちを演じた俳優たちもそれぞれに秀逸で、貧乏物語でありながらどこか滑稽な人間群像を描いた秀作である。呑気呆亭