11月15日(金)「瞼の母」

瞼の母」('62・東映京都)監督・脚本:加東泰 原作:長谷川伸 撮影:坪井誠 美術:稲野実 音楽:木下忠司 出演:中村錦之助/松方弘樹/大川恵子/中原ひとみ/浪花千栄子/夏川静江/沢村貞子/木暮実千代
長谷川伸の同名戯曲を「怪談お岩の亡霊」の加藤泰が脚色・監督した感動の名作。撮影は「若き日の次郎長 東海道のつむじ風」の坪井誠、音楽は「小さな花の物語」の木下忠司がそれぞれ担当した。流麗なカメラワークや長回し、的確なカッティングなど、加藤の職人芸が冴え渡る。番場の忠太郎を中村錦之助、その母を小暮実千代が演じた。
五歳のときに母親と生き別れになった番場の忠太郎は、母を求めて二十年間、博徒として旅を続けている。弟分の半次郎を逃がすために飯岡一家の喜八たちを斬った半次郎は、母を捜して江戸の町を歩き回るが、半次郎を追う飯岡一家の七五郎たちもまた江戸に姿を現していた。料亭の女主人おはまが江州にいたと聞いた忠太郎は、もしや生き別れの母親ではないかと彼女に会いに行くが「私の忠太郎は九つのとき流行病で死んだ」と告げられてしまうのだった。<allcinema>

中村錦之助木暮実千代の親子の名乗りのシ−ンの大芝居がスゴイ!錦之助のグイグイと迫る演技に一歩も引かず、料亭の女主人としての貫禄を見せながらふとした仕草に心の揺れを現わしてしまう微妙な役どころを木暮実千代は見事に造形してみせる。その極めつけは、もう決して尋ねぬと言ってピシャリと戸を閉めて去った忠太郎を、遂に耐えきれずに追おうとして立ち上がりざまに茶碗を突っ転ばしてふっと我に返り、追うことを諦め、しかし諦め切れずに我が子のつい今しがたまで座っていたぬくもりを確かめるかのように畳を撫でさする母に変わってしまった木暮実千代の肩の震えである。小津安二郎の「一人息子」の帽子が転がるシ−ンといい、この茶碗の転がるシ−ンといい、作家という奴はオソロシイ創造の閃きを自作の中に挿入するものだと感服した。呑気呆亭