11月14日(木)「椿三十郎」

椿三十郎」('62・東宝)監督・脚本:黒澤明 原作:山本周五郎 脚本:菊島隆三/小国英雄 撮影:小泉福也/斎藤孝雄 音楽:佐藤勝 出演:三船敏郎/仲代達矢/加山雄三/小林桂樹/入江たか子/伊藤雄之助/団令子/志村喬
★名作「用心棒」の続編ともいえる作品で、前作では桑畑を名のった三十郎が、今度は椿を見ながら“椿三十郎、もっとももうすぐ四十郎だが”というとぼけたセリフで笑わせる。「用心棒」がたったひとりで宿場の悪人どもを全滅させるのに対し、ここでは上役の汚職をあばきだそうと立ち上がる9人の若侍たちの味方につき、その凄腕で御家騒動の黒幕と対決する。加山雄三をはじめとした若侍の血気にはやる暴走をうまくコントロ−ルし、敵の仲代達矢と知恵くらべをする三十郎は「用心棒」のワイルドさにくらべておとなしい気もするが、有名なラストの一太刀で勝負をつける決闘シ−ンはまさに圧巻。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎何度も見ていると脚本の練り方が足りないと思われるシ−ンが幾つか眼に付くようになるが(警護の者たちが全員切られているのに三十郎一人が助かっている設定など)、この映画の意図するところは前作「用心棒」で成功した喜劇的な味付けをより深めてみようという所に有ったのだと思う。それは入江たか子と団令子と小林桂樹伊藤雄之助を起用したことである意味成功しているのだが、悪人側のキャラクタ−が類型的で、特に仲代達矢志村喬のメ−キャップがリアル過ぎて、前半の軽い可笑し味を損なってしまっている。喜劇的な前半と悲劇的な後半の転回点は、如何に味方側であろうとも間抜けな行動で捕まってしまった若侍を助けるために、三十郎が警護の者たちを惨殺するシ−ンであった。その無残さと無意味さが、恐らく作る側に何らかの引け目を感じさせて、ラストの眼を背けたくなるような血潮の噴出する決闘シ−ンを撮らせてしまったのではなかろうか。ここでは三十郎も相打ちで死ぬべきあった。呑気呆亭