11月13日(水)「キュ−ポラのある街」

「キュ−ポラのある街」('62・日活)監督・脚本:浦山桐郎 原作:早船ちよ 脚本:今村昌平 撮影:姫田真佐久 出演:吉永小百合/市川好郎/浜田光夫/東野英治郎/杉山徳子/鈴木光子/菅井きん/加藤武/森坂秀樹/吉行和子/殿山泰司/北林谷栄/小沢昭一
浦山桐郎の監督デビュ−作。舞台は、鋳物の町・埼玉県川口市。そこに住む職人かたぎのガンコな父を持つ、ジュン(吉永)、タカユキ(市川)の姉弟が、貧しいながらもけなげに生きてゆく様子を描いている。これにタカユキの友人サンキチの複雑な家庭環境、ジュンの進学問題、鋳物工場の組合問題と、世相を反映した社会状況が織り込まれているが、これを浦山は大上段にではなく、あくまで日常的に捉え、さわやかな感動を呼ぶ。当時18歳の吉永小百合は、本編で史上最年少のブル−・リボン主演受賞者となり、女優として開眼。アイドル・スタ−の筆頭として黄金時代を築いていく。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎大袈裟に言うなら、この映画は日本映画史にいつまでも輝きを失うことなく残り続けるであろう一個の宝石である。ジュンを演じた吉永ももちろん好演だが、その弟のタカユキを演じた市川好郎とその友だち役のサンキチ(森坂秀樹)の二人がそれぞれに家庭の屈託を抱えながらも、鳩を売買したり牛乳を盗み飲みしたりする日常が生き生きとした精彩を放っていて、この時代相をリアルにそして詩的なモノクロの映像として定着されている。同時代を同世代として生きてきた者としては、涙なしには見ていられないノスタルジックな映画でありました。呑気呆亭