11月9日(土)「旅情」

「旅情」('55・米)監督・脚本:デビッド・リ−ン 脚本:H・E・ベイツ 撮影:ジャック・ヒルドヤ−ド 音楽:アレッサンドロ・チコニ−ニ 出演:キャサリン・ヘプバーン/ロッサノ・ブラッツイ/イザ・ミランダ
アメリカ人のオ−ルド・ミスが、孤独な心で過ごすベニスの街で知り合った銀髪の中年紳士に恋をする。水の都の美しい風景をみずみずしい映像感覚で捉え、名曲「サマ−・タイム・イン・ベニス」の流れが生む切ない恋が陶酔感を誘い、愛のはかなさを思わせてくれる。名匠リ−ンはこの作品をきっかけに世界を舞台にした大作・名作を続々発表。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎まるで観光映画のようにベニスの風景の中をアメリカから来たオ−ルド・ミスと屈託を抱えたイタリア男とが、歩き回って案内してくれる。そのオ−ルド・ミス・ジェ−ンが、頑なに干からびた心を男の助けで徐々に開いて行く課程が情感豊かに描かれる。ベニスを知らぬ者にもこの街の路地や水路や広場やカフェが、まるで自分もその場に居て歩き、ゴンドラに乗り、鳩の飛び立つ様を見、珈琲を飲んでいるかのような錯覚を起こさせてくれるのが嬉しい。その水の都の満ちて引く潮のように流れる流麗な画面の中に、ふと演出のリ−ンは不思議なエピソ−ドを挿入する。落ちて行く夕陽を背景にした海辺の草むらに横たわった二人がたわいもない会話をするシ−ンなのだが、もうすっかり恋人同士となって、ジェ−ンがレナ−トに何気なく言う台詞がスゴイ。“遅いわ、帰らないと、眠っているの?”“うん、グッスリ”“昨日もそうね、昼は寝てばかり、夜は眠らず・・・”そして二人は若き恋人たちのように熱いキスを繰り返す。その翌日、ジェ−ンはレナ−トに別れを告げて列車に乗り込むのだった。呑気呆亭