11月8日(金)「大砂塵」

「大砂塵」('54・米)監督:ニコラス・レイ 原作:ロイ・チャンスラ− 脚本:フィリップ・ヨ−ダン 撮影:ハリ−・ストラドリング 音楽:ヴィクタ−・ヤング 歌:ペギ−・リ− 出演:ジョ−ン・クロフォ−ド/スタ−リング・ヘイドン/スコット・ブラディ/マ−セデス・マッケンブリッジ/ウォ−ド・ボンド/ベン・ク−パ−/デニス・・ホッパ−/ア−ネスト・ボ−グナイン/ジョン・キャラダイン
★1890年代のアリゾナを舞台に、賭博場に現れた流浪のギター弾きとかつての恋人である女主人が、駅馬車襲撃犯と自警団の争いに巻き込まれていく姿を描いた異色西部劇。
 1890年代の西部。流浪のギター弾きジョニーがアリゾナの山奥にある賭博場へやって来た。気丈な女主人ヴィエンナはかつての恋人だったが、白昼起きた駅馬車襲撃事件の容疑者キッドを匿っているとして犠牲者の妹エマと保安官たちに嫌がらせを受け、24時間以内の退去を命じられる。疑いをかけられたキッド一味は翌日、銀行を急襲。その場に居合わせたヴィエンナも共犯と見られ、遂に自警団はヴィエンナの店を襲い火をつけた…。
バーバラ・スタンウィックには「四十挺の拳銃」があり、ジョーン・クロフォードには「大砂塵」がある。どちらも“異色”と呼ばれるウェスタンの傑作で、主演女優の強烈な存在感が作品を支配する点において共通するものがある。実際本作も、原題にあるヒーロー(S・ヘイドン)はほんの呼び水にすぎず、映画の流れはクロフォードの鉄面皮の下を走る血管に荒々しく通っている。流浪のギター弾きジョニーはヴィエンナの賭博場に現れ、駅馬車襲撃の犠牲者の妹(M・マッケンブリッジ)と犯人一団の抗争に、女主人ともども巻き込まれる。実は、はっきりとではないが、主役の二人は悪の側であり、マッケンブリッジ(凄味のある好演)の方が“正義”なのだが、ひどく強権的でファナティックな存在として描かれ、いつしか観る者は追われる側に味方する--という具合になる。赤狩り禍を暗に揶揄する内容とも言われる由縁であるが、米国人らしからぬ感情の裏面や混沌を描くのはN・レイの一貫した作家姿勢なのだ。<allcinema>

◎ペギ−・リ−の歌う「ジョニ−・ギタ−」が男勝りのヴィエンナの心にある感情が兆すと、その感情をかき立てるかのように流れてくる。その感情を向ける相手が誰だろうと、木偶の坊のヘイドンだろうと構わない。ジョニ−の向こうを張るダンシング・キッドが曖昧な悪党ぶりであるのも構わない。ファナティックなエマとヴィエンナの確執が男たちを次々に犠牲にして悲劇の結末になだれ込んで行く。中でも哀切なのが誰にも気付かれない存在と自認するヴィエンナの酒場の使用人トム(ジョン・キャラダイン)の死に様であった。息を引き取りながらその場の注目が一身に集まっていることで、ましてやヴィエンナに抱かれて死んで行くことで、トムの惨めだった一生は報われたのだった。呑気呆亭