11月1日(金)「座頭市物語」

座頭市物語」('62・大映)監督:三隅研次 原作:子母澤寛 脚本:犬塚稔 撮影:牧浦地志 音楽:伊福部昭 出演:勝新太郎/天知茂/万里昌代/島田竜三/柳永二郎/毛利郁子
子母澤寛の随筆集「ふところ手帖」に収められた短いエピソ−ドである座頭の市の話をもとに、犬塚稔脚色・三隅研次監督・勝新太郎主演で映画化した大ヒットシリ−ズの第1作。ツボ振りでも居合抜きでも目明きの及ばぬ凄腕の座頭市は、飯岡助五郎の客分となる。市は釣りで知り合った肺病病みの浪人・平手造酒に友情を感じるが、平手は助五郎と犬猿の仲の笹川繁蔵の食客であった。やがて運命の糸は市と平手を対決に導く・・・。のちにはス−パ−マンになってしまう座頭市だが、この作品では冒頭、市が丸木橋をヘッピリ腰で渡るシ−ンに代表されるように、盲目という致命的なハンデが随所に示され、市の世をすねて生きているアウトロ−性が強調されている。三隅研次の淡々とした中にもメリハリのきいた演出は、プログラム・ピクチャ−の醍醐味を十分味あわせてくれる。座頭市に扮した勝新太郎の好演はいうまでもないが、それ以上に素晴らしいのが平手造酒を演じる天知茂で、新東宝時代に養ってきたニヒルな持ち味を十二分に発揮した名演技であった。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎第二話で明らかにされるのだが、市の盲目は後天的な内障眼(そこひ)であったらしく、それが冒頭のへっぴり腰で丸木橋を渡るシ−ンによって暗示される。放送禁止用語のメクラという台詞が連発されるのがかえって心地良いくらいで、そのメクラを馬鹿にする目明きたちが市に散々にコケにされるのが面白い。その屈託と劣等感を抱える市が、恐らく初めてであろうメクラをメクラだからといって馬鹿にしない人物に出会う。それが天知茂演ずる平手造酒だった。鮒がポシャポシャと跳ねる溜め池での出会い。並んで釣り糸をたれる二人。心が静かに通い合うのを二人は感ずる。長閑なそしてこのメクラと労咳やみというハンデを共に抱える二人の運命的な対決を暗示する心に染みるシ−ンである。このシ−ンの記憶がこの後に延々と続いたシリ−ズを勝・座頭市が生きて行く上での力となったのではなかろうか。市に惚れる酒場の娘の万里昌代もすがすがしい存在感で、これも頑なな市の心に温かな灯をともす情の通い合いとなっている。三隅研次の演出は座頭市の傷付きやすい感性に寄り添って、丁寧に控えめに坦々と見応えある映像を綴ってゆく。ラストの市と造酒の対決は哀切としか言いようがない。呑気呆亭