10月19日(土)「破戒」

「破戒」('61・大映)監督:市川崑 原作:島崎藤村 脚本:和田夏十 撮影:宮川一夫 出演:市川雷蔵/藤村志保/三國連太郎/岸田今日子/長門祐之/中村鴈治郎/船越英二
島崎藤村の同名の原作の映画化はすでに木下恵介の手によるものがある。こちらは市川崑の演出によるもので、厳しいリアリズムに貫かれた作品に仕上がっている。丑松に市川雷蔵を、猪子連太郎に三國連太郎を配し、お志保にはこれがデビュ−作で、原作者の藤村と役名から名付けられた藤村志保が起用されている。(ぴあ・CINEMA CLUB)

市川崑という人の業績には夫人の和田夏十('83年死去)の存在が大きかった。和田夏十が亡くなってからの市川崑は、それ以前とはまるで違った映画作家になってしまったように思う。時代の流れに乗ったといえばそれまでだが、こんなに暗くて重くて心に染み込んでくる感動的な傑作をモノした作家が、「プ−サン」などの野心作に挑んだ初心を忘れてあの一連の凡庸な金田一ものを作るようになったのは惜しいことであった。宮川一夫キャメラの映像の美しさと、ふたりの女岸田今日子藤村志保のリアルと言うも愚かな実在感に圧倒されて、深々と心を動かされたのだった。呑気呆亭