10月9日(水)「夏の嵐」

「夏の嵐」(54・伊)監督:ルキノ・ヴィスコンティ 脚本:ス−ゾ・チェッキ・ダミ−ゴ 撮影:ロバ−ト・クラスカ−/G・R・アルド 出演:アリダ・ヴァリ/ファ−リ−・グレンジャ−/マッシモ・ジロッティ/マルセラ
★だって原題が「官能」(19世紀末のカミッロ・ボイトの短編小説が原作)だもの、もう、その通り。オペラ座の舞台から始まる、この絢爛たる恋の絵巻は、後期のヴィスコンティの耽美趣味が既に顔をだしながらも、やはりネオ・レオリズモで鍛えた直截な描写力が活きていて、全くヴァイタルなメロドラマになっている。
1866年、オーストリア軍占領下のヴェネツィアで観劇中の軍の将校と抗戦運動の指導者の侯爵との間に決闘騒ぎが起り、それを諌めに入った伯爵夫人は、従弟である侯爵を流刑にされながらも、その美貌の将校に狂おしく恋をする。再び戦争が勃発し、密入国した侯爵は従姉のもとを訪ね軍資金の保管を依頼するが、夫人はその金を、将校に軍籍離脱の賄賂のためにと渡してしまう。祖国は敗れ、ヴェロナにいる彼の元に馬車を急がせた夫人の見たものは…。
薄汚れた姿で恋人を探して兵舎を訪ね回る夫人=A・ヴァリの激情は、トリュフォーの「アデルの恋の物語」のI・アジャーニの比ではない。G・R・アルドと彼の死で途中交代したR・クラスカーのキャメラのゴージャスさ、全篇に響き渡るブルックナーの第七番。これぞイタリア映画というボリュームで観る者を圧倒する、ヴィスコンティの最高傑作。
<allcinema>

◎'51年5月1日、フルトベングラ−はベルリンフィルを指揮してブルックナ−の7番をロ−マで演奏している。その時のライブ録音のレコ−ドが残っているが、恐らくヴィスコンティはこの時の演奏を実際に聴いたのだろう。そして、この交響曲、この演奏を映像にしてみようと考えたのではなかったろうか。そしてその演奏を生身で生きるのはアリダ・ヴァリという類いまれな女。彼女の心が揺れ動く度にブルックナ−がまるで暗い心の襞の奥からのように立ち現れ響き渡る。これはもう効果音楽なんてものじゃない。交響曲を映像にしてしまおうとしたヴィスコンティの恐るべき作品である。呑気呆亭