10月5日(土)「豚と軍艦」

「豚と軍艦」('61・日活)監督:今村昌平 脚本:山内久 撮影:姫田真佐久 音楽:黛敏郎 出演:長門祐之/吉村実子/南田洋子/丹波哲郎/中原早苗/小沢昭一/加藤嘉
★社会の下層を生き抜く人間たちの欲望のエネルギ−を賛嘆し、かつ笑い飛ばすふてぶてしい作風で異彩を放った、今村昌平監督初期の秀作。米軍基地に隣接する横須賀を舞台に、チンピラやくざ・欣太(長門)がやくざ組織に翻弄され、機関銃を乱射するに至るさまを、重厚に辛らつに描き出す。美も醜もともどもにかみ砕く今村演出の力業は充実のきわみを見せ、いわゆる“重喜劇”のスタイルを本作で確立した。やくざ組織の一の子分・人斬り鉄次役の丹波哲郎が、虚勢ばかり張る小心者のやくざを快演。胃病をガンと思いこんで鉄道自殺をはかるが果たせず、保険会社の大看板にしがみつくという抱腹絶倒の名シ−ンを残した。欣太の恋人役・吉村実子はこれがデビュ−作。新しい生活を求めてひとり横須賀の街をあとにする重要な役どころに捨て身で挑み、清新な演技を見せた。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎リアルタイムで見た時に一番印象に残ったのは、やはり丹波哲郎の自殺未遂のシ−ンだった。このシ−ンの可笑しさはカワレロウイッチの「夜行列車」の明け方の追いかけっこに匹敵する、人間というモノの滑稽を一瞬の閃きとして画像に定着した奇跡的な仕事である。今回見直してみてそれ以外に印象に残ったのは、欣太の恋人役・吉村実子がヤケになって米軍のパ−ティに出掛けて酒を飲んで踊りまくるシ−ンである。これは「にがい米」のシルバ−ナ・マンガ−ノのダイナマイト・ボディに拮抗する圧倒的にセクシ−なダンス・シ−ンであった。鼻が上向きで決して美人とは言えないが、これほどに新鮮なパワ−を内蔵した女優さんにこの作以後記憶に残る作品がないのはどうしたことなのだろうか。呑気呆亭