9月24日(火)「黄金の馬車」

「黄金の馬車=LE CARROSSE D'OR」('53・仏)監督・脚本:ジャン・ルノワ−ル 原作:プロスペル・メリメ 脚本:ジャック・カ−ランド/レンツォ・アヴァンツォ/ジュリォ・マッキ/ジネット・ドワネル 撮影監督:クロ−ド・ルノワ−ル 撮影:ロドルフォ・ロンバルディ 音楽:アントニオ・ビバルディ/アルカンジェロ・コレッリ/オリビエ・メトラ 出演:アンナ・マニヤ−ニ/オドアルド・スパダ−ロ/ポ−ル・キャンベル
トリュフォーのように本作をルノワールの最高傑作とする人も多い、彼がイタリアに赴いて作った、陽光に溢れ、かつ素晴らしいセット撮影に舌を巻く珠玉の名編。生きることに真摯であるがゆえにつまづきも多い、常に恋する女にマニャーニが扮し、ロッセリーニの「アモーレ」と対をなす陽性の魅力をふりまいて圧倒的。18世紀、スペイン統治下の南米ペルーを廻るイタリアの旅芸人一座の花形女優(マニャーニ)は土地の総督と浮名を流すが、彼が本国から取り寄せた、“黄金の馬車”を贈られると知って穏やかでない。スキャンダルとなるのは必至、有り難迷惑なのだ。そこで彼女は機転をきかすわけだが……。ルノワールがそれを聞きながらシナリオを書いたというヴィヴァルディの曲が全編を彩り、イタリア的大団円に向け、映画を軽やかに導く。<allcinema>

◎花形女優のマニャ−ニを繞って恋のさや当てをする三人の男たちの描き方が面白い。旅の一座に同行して来た青年と現地の花形闘牛士と総督と、それぞれが個性的で嫌みがない。普通の作劇術であれば総督などは悪役にするのが常套であろうが、これが一癖あるも決して卑劣漢ではないのが面白い。青年と闘牛士はマニャーニを争って決闘にまで及ぶのだが、これもどちらも傷付かぬ引き分けとなる。それもこれもその真ん中に居るマニャーニの開けっぴろげな陽気さと無欲さに依るのだろう。その象徴が「黄金の馬車」なのである。現地の暮らしに退屈した総督が俗物ばかりの上流人士への面当てにこれを取り寄せたのだったが、事もあろうに旅芸人の女にこれを贈ってしまったことから、てんやわんやの騒動が始まるのだった。総督は共に居て声を合せて心から笑うことの出来るマニャーニへの想いをそのプレゼントによって現わしたのだが、そんな物を貰ってしまったマニャーニは、その苦境と男たちの恋のさや当てをあっという機転によって見事に躱してしまったのだった。マニャーニに乾杯!呑気呆亭