9月21日(土)「宮本武蔵・巌流島の決闘」

宮本武蔵・巌流島の決闘」('65・東映京都)監督:内田吐夢 原作:吉川英治 脚本:鈴木尚之 撮影:吉田貞次 音楽:小杉太一郎 出演:中村錦之助/高倉健/入江若葉/丘さとみ/片岡千恵蔵/浪花千栄子/三國連太郎
中村錦之助主演によるシリーズ五部作の第五部で、一乗寺での果たし合いを終えた武蔵が佐々木小次郎と戦うまでが描かれる。
吉岡一門を葬った宮本武蔵は、幼い子供を殺めてしまった罪悪感を抱きながら、再び修行の旅に出ていた。旅の途中で研師の家に立ち寄った武蔵は、そこで再会を約束した佐々木小次郎の刀を目にする。やがて武蔵は将軍家の指南役である北条安房守の屋敷に迎えられ、沢庵和尚と再会。沢庵に指南役になってはどうかと勧められるが、幼い子供を斬ったことが問題となり不採用となってしまう。武蔵は小次郎から果たし状を受け取り、決闘場所である巌流島へ向かうのだった。
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◎第一部からこの第五部までたけぞうを仇と付け狙ってきたお杉婆の変貌ぶりが、見どころの少ないこの作品の唯一といって良い見せ場である。決闘を明日に控えた日、小次郎の宿舎を訪れて助太刀を申し入れたお婆は門前払いをくう。プリプリ怒って引き上げる道筋でお婆はお通と又八と又八の子を産んだ朱美に出会う。“こんな子供は本位田の血筋ではない、いやじゃ、いやじゃ”と道ばたにぺたんと座り込んで駄々をこねるお婆を演ずる浪花千栄子の小さくなった後ろ姿が何とも微笑ましい。すっかり好好爺の顔になったお婆と又八たちは武蔵の船出を見送る。お通は例によって泣き落としに掛かるのだが、武蔵は武士の妻らしく笑って見送ってくれと言って舟島への船に乗り込む。泣き崩れるお通の肩を抱いてお婆は叫ぶ“たけぞう、負けるでないぞう、負けるでないぞう”と。
クライマックスの決闘シ−ンに関しては、その前夜の武蔵と小次郎の対照的な過ごし方を類型的に描いたために、誰もが知っている結末へのサスペンスが盛り上がらなかった。それもあってか内田吐夢は'71年に遺作となる武蔵と宍戸梅軒の闘いを描く「真剣勝負」を撮ったのだろう。呑気呆亭